地域に新たな息吹を吹き込む「鶴亀塾」ニューワーカー。市民と描く未来の協創
地域活性化の新たな取り組みとして

長崎県松浦市で地域活性化の新たな取り組みとして「鶴亀塾」ニューワーカーを企画。その名の通り、「鶴は千年亀は万年」という言葉に象徴される持続性と、地域に深く根差し、未来を築くという願いが込められています。「ニューワーカー」とは、地域で多様な役割を担い、既存の枠にとらわれない「定義されない仕事」をする人々を指し、その活動はまさに地域の未来を創造する力になると考えます。
今回は、この企画に参加した3名と、行政職員の方へのインタビューを通して、彼らが「鶴亀塾」に何を求め、何を得たのか、そして松浦市の未来にどのような希望を抱いているのかを探ります。行政の視点も交えながら、多角的に企画の意義と成果を紐解きます。
「ニューワーカー」が結ぶ新たな縁と期待、行政の狙い

インタビューは、まず松浦市で不動産業を営む山口将仁(やまぐち まさひと)さんから始まりました。本業で空き家や耕作放棄地の活用にも尽力されている山口さんは、松浦商工会議所青年部の副会長として、子ども向けイベント「松浦こども博」や大人向けの交流会「松浦おとな博」を主催するなど、多岐にわたる地域活動に携わっています。また、松浦高校の学校運営協議会委員も務め、教育関係にも深く関わっています。
山口さんは、「鶴亀塾」への参加動機を「新たな出会いへの期待」と語りました。実際に、この企画を通じて多くの新しい顔ぶれと知り合うことができ、その中には偶然にも普段から仲良くさせてもらってるファミリーの親戚にあった方との出会いや、「結果的にはすごく良かった。これから新たな試みがいろいろできてくるかなと期待している」と、今後の連携に胸を膨らませています。

企画の中心となったパズルワークについては、「面白かった」と評価しつつも、「ニューワーカーという名前だったので、もう少しそちら寄りなのかなと思ったが、実際は松浦市全体への『まちづくり』という印象だった」と率直な感想も述べました。しかし、この出会いが具体的なプロジェクトへと繋がる可能性を示唆しており、新たな動きへの期待感は高まっています。
行政職員である近藤健(こんどうたけし)さんは、鶴亀塾の参加者について「正直、こちらの狙いとしては、あれぐらいの人数を考えていた」と語ります。多すぎず少なすぎず、小規模で本質的な議論ができるキャパシティを意識していたとのこと。「めちゃくちゃ何十人ってなるよりかは、小規模の方がやっぱ伝わるし、本質的なところを捉えられる」と、参加者の意思と深いつながりを重視したことを明かしました。発信もあえて大々的には行わず、地域内での回覧などを中心に、興味のある人たちが自発的に集まることを意図していたようです。
地域を愛する心が導いた転機、ゴルマンこと金山さんの地域おこし協力隊への挑戦

続いてお話を伺ったのは、福岡市でコミュニティラジオ放送局「コミュニティラジオ天神(コミてん)」の代表を務める金山利治(かねやまとしはる)さんです。金山さんは、松浦市が募集していた二地域居住・ワーケーションを推進する「地域おこし協力隊」というユニークなカテゴリーに惹かれ、2025年10月1日から晴れて松浦市民となられました。
金山さんと松浦市、そして行政職員である近藤さんとの縁は、遡ること10年前。西九州道の無料開通を機に、福岡からの観光客誘致を目指す松浦市福岡事務所からの依頼で、福岡と松浦をつなぐ様々な企画を立ち上げてきました。市民参加型のラジオ企画や、メディアタイアップ、型破りな発想で地域に新しい風を吹き込んできた経験があります。
特に印象的だったのは、久保川さん(後任の福岡事務所長)とのモンゴル村での「星空企画」です。移動プラネタリウムや天体望遠鏡を設置し、地域の小学生とその家族が総出で松浦の美しい星空を楽しむイベントは大成功を収めました。「何もない」と思われがちな松浦の夜空を「あるもの」として再認識させ、地域の魅力を再発見するきっかけとなりました。
金山さんは、今回の「ニューワーカー」企画についても、主催者からのメッセージ性の強い告知に「これは俺へのメッセージかな(笑)」と感じ、参加を決意したと言います。鶴亀塾の「ニューワーカー」という言葉には、「新しい働き手を募集する」という表層的な意味だけでなく、「地元から何かを発信する」という深い意味を感じたそうです。

実際に参加してみて、「松浦にはこんなにも原動力のある人がいたんだ」と驚いたそう。「地元で何か動きたいと思っている人、どう動けばいいかわからないと感じている人が多く参加していて、すごく明るい未来を感じた」と語り、この企画が地域の人々の「くすぶっている」想いを引き出す場となったことを強調しました。
金山さんが地域おこし協力隊として松浦市へ移住する背景には、近藤さんとの長年の信頼関係があります。近藤さんは、金山さんがコミュニティーメディアの仕事をされていることから、今回の地域おこし協力隊の募集にも力になってくれると思い、直接彼に情報を届けたようです。そしたらご本人が応募され、「募集要項を持ってきたら、もう僕はすぐ網に引っかかる(笑)そして子ども達も大学、高校を卒業するのでタイミングもすごく良かったです」と。行政からの働きかけが自身の人生の転機となったことを示唆しました。
近藤さんは、「まさかのね、福岡で漁師の話すると思わなかったよね。金山さんも、うちも親が漁師やってた」と意外な共通点があるなど、長年にわたる連携で個人的なつながりにも発展している様子が伺えます。
金山さんはこれから松浦市での3年間の任期中、新たな事業を起こすことなどを視野に入れながら、多くの人との出会いと繋がりを大切にし、「何か一緒になにかできることが多くあればいいかな」と語っています。
Uターン会社員、濱村さんの描く松浦の未来図

最後に登場したのは、松浦市出身のUターンした、濱村梨紗(はまむらりさ)さん。高校卒業後、長崎の専門学校へ通い、そのまま長崎市へ就職。11年間勤務をされていましたが、昨年松浦市に帰郷。その際に感じたことが、「昔よりも祭りの規模が小さくなった」「街全体が静かで寂しい」と感じたことが、地域のために何かしたいという原動力になったと言います。特に増え続ける空き家を目にし、「空き家をどうにかしたい」という思いから、今回鶴亀塾でつながった山口さんへ相談を持ちかけました。
濱村さんが描く未来の松浦市は、海沿いの空き家を活用した宿泊施設とコワーキング・フリースペースの複合施設です。早朝から利用できるカフェスペースや、全国のドリップコーヒーを楽しめる場を設け、人が集まり、交流が生まれる場所を構想しています。さらに、地元のお祭り「くんち」と連携した体験プランや、新鮮な魚介を楽しめる企画も考えているそうです。

「鶴亀塾」に参加したきっかけは、主催者からの直接の声かけでした。「今後の役に立つかもよ」という言葉に背中を押され、参加。直接声をかけた理由は濱村さんに対し、「なんかやりたいけど、くすぶってるという言い方が正しいかはわからないけど、何かしたい想いがあるんだろうなっていうのを感じてたんで、新たな出会いとか、色々な人と繋がれるように」と、声をかけた意図があります。地域にUターンしてきた若者の潜在的な想いを感じ取り、その背中を押したいという行政としての想いが伝わってきます。
鶴亀塾で、「松浦の今ある資源を活用して何かできる」という金山さんの話を聞いた濱村さんは、「新しいことをしなくても、古民家を活用して自分がしたいことができる」と改めて気付くことができたと話します。
この企画への参加が、濱村さんの行動を大きく加速させました。ぼんやりと抱いていた空き家活用への想いが、「この物件が欲しい、ここで何かしたい」という強い想いを抱き、山口さんに相談。「現在、具体的な物件の交渉を進めている段階です。まだ現在の仕事があるため、すぐに事業化はできませんが、今は準備期間として様々なことを進めています。将来的には、高齢化率の高い松浦市で、自身の経験を活かしたサービスなども視野に入れている。」とのことです。

濱村さんは、「鶴亀塾」が「人との繋がりを大事にして、何かをしていきたいという気持ちを強くしてくれた」と語ります。この場所での出会いが、彼女の新たな一歩を力強く後押ししています。
「issho(イッショ)」に未来を創る拠点

今回の取材は、松浦市に新しく誕生した交流拠点「issho」で行われました。「issho」は、元地域おこし協力隊で、一般社団法人まつうらコミュニティデザインの代表である宮田ゆかさんが中心となり、山口さんもメンバーとして参画し立ち上げられたレンタルスペースです。かつて呉服屋さんだった空き店舗を活用し、今後も新たな取り組みが生まれるそうです。
「issho」という名前は、鎌倉時代に元寇から日本を守った広域連携武士団・松浦党の合言葉「一所懸命」から名付けられたものです。場所は問わず松浦を思う人が協力し、個人や地域の未来を拓いていく「共存共栄」の願いが込められています。この場所の設立も、山口さんが空き家バンクの登録事業者として行政と連携してきた実績からオーナーとの縁を繋ぎ、たくさんの人の協力があって実現に至りました。

今回の「鶴亀塾」ニューワーカー企画は、まさにこの「issho」という名前が示すように、多様な人々が松浦市という舞台で繋がり、「共存共栄」していく可能性を秘めています。

「何もない」と地元の人々が感じていた場所には、美しい星空があり、豊かな自然があり、そして何よりも「何かをしたい」と願う熱い想いを持った人々がいました。行政が提供する「鶴亀塾」のような機会と、それに呼応する地域の人々の情熱が、松浦市の未来をより明るく、魅力的なものへと変えていくことでしょう。地域に根差し、多様な視点を持つ「ニューワーカー」たちの活動から、これからも目が離せません。