鶴は高く、亀は深く。松浦市「鶴亀塾」が示す、地域で活躍する新しい道
長崎県松浦市は、九州本土と数多くの島々からなる、歴史と自然豊かな地域です。古くは大陸との交易の要衝として栄え、特に鎌倉時代から戦国時代にかけては「松浦党」と呼ばれる水軍が活躍し、海上交通や防衛を担いました。また、豊かな漁場に恵まれ、現在もアジやサバなどの漁業が盛んな「魚のまち」として知られています。一方で、石炭産業で栄えた時代もあり、多様な産業の歴史を持つ地域でもあります。そんな松浦市で今、新たな地域の担い手「ニューワーカー」を育む熱い取り組みが行われました。

2025年8月25日、長崎県松浦市で地域に新たな風を吹き込む熱いセミナーが開催されました。その名も「鶴亀塾(つるかめじゅく)」地域の方々はもちろん、移住者の方、そして地域おこし協力隊や他市町村の皆さんも含め、約30名もの参加者が集結。地域で「自分らしい働き方」を見つけ、実践していくためのヒントが満載の一日となりました。地域を盛り上げる熱い想いが詰まったセミナーをご紹介します。
「鶴亀塾」に込められた熱い願いと、ニューワーカーの可能性

まず、気になるのが「鶴亀塾」というネーミングではないでしょうか?「鶴は千年、亀は万年」という言葉があるように、地域での事業や活動が長く長く続いていくように、という願いが込められています。さらに、鶴は空高く舞い上がり、物事全体を広い視野で捉える象徴。一方、亀はじっくりと大地を這い、物事を深く掘り下げていく象徴。この二つの視点を持つことで、「地域を多角的に見つめ直し、新たな価値を生み出そう」そんな想いが込められています。
そして今回のテーマは「ニューワーカー」これもまた聞き慣れない言葉かもしれませんが、とっても奥が深いんです。地域で活躍している人の印象として、特定の職種にだけ当てはまるわけじゃなく、むしろ地域の課題を解決するために、時には企画を考えたり、イベントを運営したり、と複数の役割を掛け持ちしてマルチに動いている人が多いのではないでしょうか?まさに、そんな「特定の定義に縛られない、地域で多岐にわたって活躍する働き方」を「ニューワーカー」と定義し、今回のセミナーのテーマにあげました。

今回のセミナーでは、言葉の意味を直訳するのではなく、「地域で価値をつくる人」を求めているというメッセージが込められていました。シートにあった「NEW WOKER とは?」の定義のように、「一つの肩書きでは言い切れない。地域とゆるやかにつながりながら、複数の役割を行き来する。そんな新しい働き手を私たちは『ニューワーカー』と呼ぶことにしました。」という考え方は、参加者の皆さんの心に深く響いたのではないでしょうか。
行政の担当者さん、移住者の方々、地域おこし協力隊、地元の方、そして他市町村からの参加者してくださった方。様々な立場や視点を持つ人々が一同に会し、「この地域で何ができるんだろう?」「自分は何がしたいんだろう?」という、一人ひとりの内なる問いと向き合う、そんな時間となりました。
講師の体験談に心に響く学びの時間

セミナーは、一社)東彼杵ひとこともの公社、森の体験談からスタートしました。自身の経験を通じて、地域での活動や「ニューワーカー」としての働き方のリアルな姿を共有。参加者の皆さんは、メモを取ったり、頷いたり、真剣な眼差しで聞き入っていました。具体的なエピソードは、きっと多くの参加者にとって、自分自身の活動を重ね合わせ、新たな一歩を踏み出す勇気を与えてくれたことでしょう。
そして、この鶴亀塾はワーク中心です。座学で話を聞くだけでなく、実際に手を動かし、頭を使い、参加者同士でコミュニケーションを取りながら学びを深めていきました。
コミュニケーションワークショップ:伝わるって難しい。でも大切。

最初のワークは「コミュニケーションワークショップ。」これは、普段何気なく行っている「伝えること」と「聞くこと」の難しさ、そして大切さを体感するワークです。参加者からはこんな声が上がっていました。
「改めてゲームで体感すると、伝えることはすごく難しいですね!」
「相手が何を言いたいのか、どうすればちゃんと伝わるのか、すごく考えさせられました。」
「聞くことって、ただ黙って聞くだけじゃないんだなと。質問の仕方とか、リアクションとか、工夫できることがたくさんあると感じました。」

普段の生活や仕事の中で、私たちは「伝わらない」「理解してもらえない」といった悩みを抱えることも少なくありません。このワークを通じて、言葉の裏にある意図を汲み取ること、そして自分の想いを的確に表現することの重要性を、身をもって学ぶことができたのではないでしょうか。地域で活動していく上で、多様な人々と協力し、共感を生み出していくためには、このコミュニケーションスキルはまさに必須です。参加者の皆さんの表情からは、新たな気づきを得た喜びが伝わってきました。
能動ワークショップ:「ひと」「こと」「もの」で想いを形に

続いて行われたのは、「能動ワークショップ」です。これは、参加者一人ひとりが心の中に抱いている「実行したいこと」を具体的にしていくためのワークでした。自分の「想い」を形にするために、「ひと」「こと」「もの」の観点から整理していきます。
ひと: 松浦にこんな「ひと」がいたらもっと盛り上がるな~
こと: 松浦でこんな「こと」がおこればもっと盛り上がりそう!
もの: 松浦にどんな「もの」があれば過ごしやすいだろう?

「ひとこともの棚卸」シートを使って、それぞれのアイデアを広げていきます。参加者の皆さんは、それぞれのアイデアをシートに書き出し、グループ内で共有。活発な意見交換が繰り広げられました。
「この地域のこの資源、こんな風に使えそうじゃない?」
「そうそう!あの人なら、このアイデアに協力してくれるかも!」
「私の考えていたことと、あなたのアイデアを組み合わせたら、もっと面白くなるかも!」
グループワークを通じてどんどん具体化されていく様子は、見ているだけでもワクワクしました。
「思考性」と「能動の原動力」で、無理なく継続できる活動へ

このワークは単なるアイデア出しで終わることなくより深く本質的な「思考性」を促すアプローチでした。シートにあった「思考性」の項目では、活動を「一過性」でなく「継続性」のあるものに、「意図的」でなく「自然発生的」なものに、そして「属人的」なものではなく「仕組みづくり」へと発展させていく視点が示されていました。

また、「MUST(労働者)」ではなく「WANT(能動者)」へ、そして「一歩踏み出せない」理由を乗り越えるヒントとして「行動」「思考」「経験」のトライアングルが提示されていました。
これらは、地域での活動を始める上で誰もがぶつかる壁や、それを乗り越えるための心の動きを、深く掘り下げて考えるきっかけになったことでしょう。参加者は自分の「モヤモヤ」を書き出し、それを「ワクワク」に変えるための具体的な「問題」と「課題」に整理するワークも行い、より実践的な学びを得ていました。

参加者の声:つながりから生まれる新たな一歩
セミナーの総評として、多くの参加者から「参加して本当に良かった」という声が聞かれました。特に印象的だったのは、参加を通じて「自分の想いがより強くなった」という声です。
「ずっと頭の中で温めていたアイデアがあったんですが、今回のワークで具体的に考えることができて、自信が持てました」
「同じような想いを持つ人と出会えて、一人じゃないんだと勇気づけられました。」
そして、なんとこのセミナーでの「つながり」がきっかけで、実行に向けて一気に加速した方も出てきているとのことです。鶴亀塾で出会った仲間と協力し、具体的な行動に移し始めているそうです。
松浦市に吹く「ニューワーカー」の新しい風

鶴亀塾ニューワーカーセミナーは、単なる研修会ではありません。それは、地域に新たな価値を生み出す「ニューワーカー」がつながり、そして未来へと羽ばたいていくための場づくりになったのではないでしょうか。
地域には、まだまだ知られていない魅力的な資源や、解決すべき課題がたくさんあります。そして、それらを「自分ごと」として捉え、積極的に行動していく「ニューワーカー」の存在は、地域の未来を明るく照らす光となるはずです。

今回のセミナーを通じて生まれた新たな「つながり」や「アイデア」が、松浦市、そしてそれぞれの地域で、今後どのように花開いていくのか、今からとても楽しみです。
鶴は高く、亀は深く。地域全体を広く見つめ、そして一つ一つの物事を深く掘り下げていく。そんな「鶴亀」の精神を持った「ニューワーカー」たちが、これからも地域を力強くしていくことでしょう。