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K&L's factory 発達支援ルーム くじらぐも
あなたの経験がさらに活きる仕事。『くじらぐも 管理者・保育士 松尾 幸太さん』
大村市にある『発達支援ルーム くじらぐも』。東彼杵町千綿地区出身の松尾幸太さんは、14年間保育士として勤務したのち、その門を叩きました。7年目のいま、幸太さんは保育士の経験を活かしながら管理者として勤務しています。「チームで働くみんなの専門的な知識や視点が活きるのが楽しいし、それが『くじらぐも』の強みです」と語る、その仕事とは。
「なぜ子どもは体を動かすのが好き?」の答えをくれた
『くじらぐも』との出会い
「やっぱり子どもって、体を動かすのが好きじゃないですか。でも、なんで好きかっていうのが、今までわかんなかったです。保育士として」。長年、多くの子どもたちと関わっていく中で抱いてきた松尾幸太さんの疑問。それが解けた瞬間が、『くじらぐも』を見学に訪れたときでした。
幸太さんは、発達支援を必要としている利用者たちが生き生きと体を動かして楽しむその様子を見て衝撃を受けたといいます。
「子どもって体を動かしながら、いろんな遊びで、例えば、ブランコだったら揺れる感覚を。トランポリンならギュって飛ぶ感覚というのを、脳に伝えて大きく成長しているんだっていうのを聞いて。この仕事をし始めてその様子を見ていたら、『なるほど、だからか!』って。僕がずっと疑問に思っていたことが、ガチャンって繋がったんですよ」
これまで、大村市と東彼杵町二か所の保育園で14年間の経験を積んできたなかで、児童発達支援が必要な子どもと個々で向き合う機会がなかったと振り返る幸太さん。“児童発達支援”という分野を知り、徐々に心を惹かれていた最中の出来事でした。
“子どもと関わる仕事”を選んできた人生の次なるステップが見えました。
現在の『くじらぐも』での仕事と保育園との違いについて聞くと、「『くじらぐも』は、子ども一人ひとり個別に見るから、その子の成長がわかりやすい。何より、ここにはいろんな資格を持ったスタッフがいて。自分だったら保育士。作業療法士の方や言語聴覚士の方もいるから、子どもに対していろんな方向からの見え方があるんですよね。常に話し合って、方向性を決めては実践。うまくいけば次のステップへ、難しければまた持ち帰って皆で共有する。だから、うちは1人というより『チーム』でやっている感が強いです」。
職員のなかでも、太陽のもとで咲くひまわりのような印象を受ける幸太さん。いまに繋がるチームプレーは、少年時代から続いていました。
ハンディキャップはスポーツ少年のすぐそばに
サッカー、剣道、水泳、バレーボールに習字。これ、実は幸太さんがやっていた習い事や部活の数々なんです(そのうちサッカーは社会人チームで続けるほどの愛!)。4歳年上のお兄さんの背中を追いかけてきた少年時代、インドアとは無縁の生活で、スポーツも遊びも全力疾走。日曜日にはサッカーと剣道の両方の試合が入るという、体が2つあればいいのになというシチュエーションも。
「後先考えずに、ひたすら楽しいことを目指して遊んでいたなっていうのがありますね」
そんなアクティブな幸太少年には、4歳年下でダウン症の妹さん(はーちゃん)との日常がありました。当時はまだこうした発達障害への認知度や理解は浅く、兄妹が通う小学校からは支援学校への通学を勧められましたが、両親は普通学校を強く希望。「でもね、集団登校とかになると、歩くのが遅かったりとか。いろんなものに気が散って、もう歩きたくないってしゃがみ込むこともあったので、自分が妹を一緒に学校まで連れていったりとか、そういうのが多かったかなっていう風には思います」。
ごく自然に、妹さんのハンディキャップの手助けをし、その繋がりで下級生の友達ができました。さらに、スポーツや習い事で幅広い世代とも交流を深めていきました。幸太さんの人柄に加え、千綿地区の地域性のあたたかさがうかがえます。
「そういえば、学校が休みで両親が仕事の日は、はーちゃんの分も一緒に料理を作っていました」。小学校低学年から台所に立つ母親の手伝いをしていたのがきっかけで料理も得意分野に。“パン粉からかつ丼を手作り”していた父親の凝り性も影響し、今でもプライベートで料理を楽しんでいるとのこと。
その趣味は、高校卒業後の進路のひとつに挙がるほどでした。「ご飯作るのが好きだったから、調理師とるかっていうので最終的には(保育士と並びました)」。さらに、父親から東彼杵町の特産「そのぎ茶」に関わる進路はどうかと、静岡の専門学校への進学を勧められており、心の針は右へ左へ。
「けれどやっぱり、子どもと関わるのは楽しいし、自分も楽しみながらやりたいなっていうのが一番強かった」。中学生の頃『つばさ保育園(社会福祉法人おおぞら)』との交流会で、ダウン症の子と一緒に遊ぶ機会があった幸太さんは「こういう子もいるんだ、妹と一緒だ」と視野が広がるのを感じました。そのあたたかい想いに背中を押された幸太さんは、精いっぱいの言葉を紡いで、保育士の道を選ぶことを両親に伝えました。
「そしたら『いいんじゃない』っていう感じで。あれが何か、ひとつのターニングポイントだったのかなっていうのはありますね。今となっては」。
本当にこの仕事でいいのかと悩むこともあったけれど、
やっぱり子どもと関わる仕事がしたい。
こうして福岡の短大へ進学し、保育について学びを深めていった幸太さん。この道を選ぶきっかけのひとつにもなった『つばさ保育園』や、将来関わることになる東彼杵町の『やまだこども園』で実習を重ねました。
就職先は気心の知れた地元を選び、初めは大村市にある『久原保育園』に就職。クラスの担任のサポートからはじまり、0歳から2歳までの子どもたちの保育を行ってきました。「かわいかったですよ。その子たちはもう大学三年生ぐらいですよ。感慨深いですね」。
もともと男性が少ない職種ということもあり、息抜きが必要になる場面もありましたが、持ち前の“楽しさを追求する精神”を発揮。園の発表会ではみずから悪役を演じて子どもたちとの一体感を高め盛り上げたりと、充実した時間を過ごしました。
4年間勤めて、ふいに訪れた「このままでいいのだろうか」という思い。その気持ちと向き合うため、幸太さんは一度職場を離れることにしました。しかし、兄の子どもを保育園に迎えに行った際、園から聞こえてくる子どもたちの声が心地よく、やはり同じフィールドに戻りたいと思うように。
そんなタイミングで声がかかったのが、『やまだこども園』でした。アルバイトから入り、クラスの担任を受け持つなどして10年ほど在籍していました。そこでは幸太さんのスポーツマンぶりも発揮。芝生を使って子どもたちにサッカー教室を開いたり、頭も体もフル回転の生活が続きました。
幸太さんに次なるターニングポイントが訪れたのは年長クラスの担任をしていた頃。児童発達支援が必要な子どもを見ることになったのですが、通常の保育園だとどうしても集団で見てしまうため、個々での支援が難しい状況でした。「児童発達支援って、どんなことをしているんだろう」。
このことが幸太さんの心の針を動かすきっかけとなり、さらに、久原保育園で受け持ったクラスの保護者さんからの紹介で『くじらぐも』を知ったことが、現在の道につながりました。
“チーム”で、子どもたちの成長のために
子ども一人ひとりの成長を、幸太さんはじめチームの皆さんが向き合いながら支援していく『くじらぐも』。その仕事ぶりはやはりスポーツのチーム戦で、それぞれのスキルや知見を活かした日々の奮闘ぶりがうかがえます。
「ここでは“マイナス”というのがないんですよ。うまくいかないと思ったら、それを“次のチャンス”と捉える。やはり捉え方次第で自分たちのモチベーションにも繋がってくるんで。だから困ったときは『ピンチはチャンスだね』って声を掛け合っていて、それがすごく楽しいです」。
45分のセッションでは、スタッフそれぞれがその子どもの特性や感性を見極めながら、時々に応じた関わり方をしています。ときに激しく体を動かすこともあるので、疲労や怪我などもつきもの。そういった場合はスタッフ同士で情報伝達しフォローしながら、子どもたちの支援とスタッフの心身をカバーしています。
「子どもたちのために、という思いはスタッフ全員同じです。新しい遊びや関わり方を考えたり。ああでもないこうでもないってスタッフ同士で話しているうちに昼休みが終わったりします」。
幸太さんはもちろん、みなさんのやりがいとなっているのは子どもたちの成長が明らかに変わっていくこと。「一般的にコミュニケーションが取りづらいお子様が遊びを通して『もう一回!』としっかり目を見て伝えてくれるようになったり、お友達への意識が少ないお子様が、お友達と同じ空間で活動する中で、関わりを持って遊べるようになったり、45分の活動の内容を複数のお友達と話し合いながら組み立てれる事が出来るようになったり……。そんな成長を間近で見れるのは、めちゃくちゃ嬉しいですね」。
保育士の自分だからこそできることを発信したい
『くじらぐも』は、2025年の8月に移転を控えています。今後は施設の拡大とスタッフの増員が課題となってきます。そんななか幸太さんが抱く、これからの目標についてうかがいました。
「今後、スタッフがまた入ってきた際に、みんなで力を合わせられるようにしっかりと基盤を作りたいですね。私個人としては、以前保育園に出張して講和をさせていただいたことがあって。『遊びの大切さ』や『遊びが子どもたちの成長に繋がっているんだよ』というのを、ゆくゆくは色んな園を訪問して伝えていきたいなと思います」。
幸太さん自身が、『くじらぐも』で体感し学んだ“遊ぶことの大切さ”。それを保育士の立場として、より多くの保育に関わる人たちに伝えていきたいと語ってくれました。
“子どもは遊ぶのが仕事”。そんな言葉も、時代とともにだんだん薄れていっているような気がします。しかしここでは、その根本に立ち返り、スタッフや保護者、さまざまな大人たちが子どもたちの成長をあたたかく見守り支えています。
一人ひとりが、大地に張る豊かな根のように。『くじらぐも』には、関わる人の数だけ可能性がある(それも、いろんな掛け合わせてどんどん広がっていく!)と、幸太さんのお話を聞きながら感じました。
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プロフィール
管理者・保育士
松尾 幸太
会社情報
- 会社名:
- K&L's factory 発達支援ルーム くじらぐも
- 所在地:
- 〒856-0806 長崎県大村市富の原906−1−2
- Tel:
- 0957-46-3396