うま味たっぷり、だけどさっぱり。〇〇〇を食べて育った『雲仙ニボサバ』【株式会社 天洋丸】
雲仙市南串山町(みなみくしやまちょう)で水産業を営む、株式会社 天洋丸。
『一年漁師』や『じてんしゃ飯の素』など、なんだか気になる”モノ”や”コト”ばかり。
そんな天洋丸が、どうやらまた面白そうな”モノ”を生み出しているようです。
今日は、養殖で育てている「サバ」のおはなし。でも、ただのサバじゃないんです。
いったい普通のサバとは何が違うのか、養殖を担当する方のお話も交えながら、その秘密を紐解いていきましょう。
”漁師のこれから”を見据えた、本気のアイデア
天洋丸の漁業を支えているのは、にぼしの原料となる「カタクチイワシ」。
まき網漁といって、灯りに集まった群れを大きな網でぐるりと囲み、網を小さくしぼりながら獲る。漁撈長(ぎょろうちょう)が場所とタイミングを見極め、「ここだ!」というときに複数の船で協力して漁をするのだ。
実は、長崎県がカタクチイワシの漁獲量全国一位なんだとか。しかし、イワシは回遊魚のため、漁獲できない時期は絶対にある。「いかに獲れるときにドカッと獲って蓄え、獲れない時期を乗り切れるかが勝負。」と、代表の竹下 千代太さんが教えてくれた。
そうはいってもやはり、漁業は厳しい世界。農業と同じで、自分たちでは操れない「気候」に左右されてしまう。近年は温暖化や環境変化で、毎年同じやり方では通用しない。漁獲量は年々減少してきているという。
地域の漁業を成り立たせるために、千代太さんはいろいろな策を考え続けた。そんなある日、天洋丸の漁場である橘湾(たちばなわん)で、サバの稚魚が獲れ始める。そのままで卸すと安価だが、自分たちで育てて売れないかと、4年前、小さな生簀(いけす)で実験的に養殖を始めた。
さて、ここでこの記事のタイトルを振り返ってみよう。『◯◯◯を食べて育った雲仙ニボサバ』の「◯◯◯」に入る言葉とは...?
すでにピンときている人もいるかもしれないが、『ニボサバ』の「ニボ」とは、にぼし(煮干し)のこと。つまり、ニボシを食べて育ったサバということだ。
まき網漁で獲ってきた新鮮なイワシを、専属の加工業者に委ねてにぼしへ加工。天洋丸ではその一部を商品展開している。「にぼし」と一口で言っても、出汁用の煮干しや炊き込みご飯の素、おやつ、お酒のおつまみなど、そのレパートリーはさまざま。そんな自社の”強み”を生かして、厳しい漁師の世界を生き抜こうと考えたのだ。
一般的に養殖のエサとなるのは、魚粉を固めた「ドライペレット」や、生の魚に魚粉を混ぜた「モイストペレット」など。市販のエサは高価なため、天洋丸では、規格外のイワシを生のまま冷凍したものに、加工の際に出る煮干しの粉を混ぜて、独自のモイストペレットをつくっている。
「養殖業っていうのは、エサ代がかかるから、みなさん少ないエサで太らせようとするんです。でもうちは商品にならないにぼしを使ってるんで、費用を安く抑えられる。イワシも、獲ってきて選別機から出たものを数時間後には冷凍するので、鮮度がいい。これはなかなか真似できないやり方だと思う。」
エサ代を削減できることに加え、にぼしを魚に食べさせるという贅沢な養殖ができるのは、イワシ漁に力を入れ、にぼし加工品を多く揃える天洋丸にしか繰り出せないワザだ。ただ魚をとって売るだけでなく、”攻め”の姿勢で未来の漁業を見据えた、本気の戦略だった。
ラーメンやお味噌汁のダシをとるのに使われるくらい、にぼしにはうまみ成分がたっぷり。ということは、それを食べて育ったサバも同じく、うま味たっぷりなのだ。「自分たちが言うと手前味噌になってしまうけど」と、千代太さんがこう言い足す。
竹下さん「実際、東京の恵比寿にある料理屋にうちのニボサバを卸してるんだけど、そこの料理人っていうのは、色んな地方の養殖サバを食べて、うちのが1番良いって言ってくれてる。サバのしゃぶしゃぶだとか、しめ鯖だとか、いろんな料理にしたいらしい。そういう人にとっては、脂が乗りすぎたものよりも、適度な脂の乗ったものの方が使いやすい。」
脂が少なめで、さっぱりおいしく食べられるのは、エサ以外にも理由があるそう。
「秋に獲った稚魚を、夏を待たずに出荷してるから、他のサバと比べてまるまる太ってないんです。体長に比べて重さはないけど、程よい脂で、何匹でも食える。肉で言うと、カルビみたいに脂たっぷりなのはたくさん食べれないでしょ。」
「夏を越すリスクっていうのが大きいんです。本当は夏を超せばもっと大きく成長させられるけど、水温が高くなると、生きられないのが出てくる。それと、赤潮。来なければいいんだけど、去年、一昨年って2年続けて赤潮でやられたから、そのリスクをなるべく背負わないように。」
夏を超すと大きくなるし、そのぶん高く卸せる。しかしリスクは大きい。そこで、損害を減らすために夏前に出荷したところ、にぼしのうまみ成分を引き立たせる、ちょうどよい脂加減だと評価された。
ここまでサバ養殖のストーリーを辿ったところで、次はお世話を担当する方のはなしを聞いてみよう。
子育て上手は、養殖に向いてます
漁師歴20年の牧島 一仁さん。祖父がトラフグの養殖を営んでおり、幼い頃からよくエサやりを手伝っていたそう。要領のわかる牧島さんが3年前、天洋丸に入社してすぐにニボサバ養殖を任された。
牧島さん「一番大事なのは、管理。自分の子供みたいに育ててますね。可愛いっすよ、やっぱ。」
「これが本当に便利なんです」と見せてくれたのは、この画面。センサーを実装している「ICTブイ」という機械から、水温や塩分濃度などの情報がスマートフォンに送られてくるそうだ。日ごとに変わる海の状態を確認しながら魚の様子を見て、エサの量を細かく変えているという。
少しの変化も敏感に感じ取る力が必要な養殖の仕事を、牧島さんは「寮母さんのような存在」と例えた。
「エサへの飛びつき方とか、泳ぎ方を見れば、魚の体調がすぐわかる。イチから育てて、最後の出荷までずっと立ち会ってたら、ほんとわかるんですよ。だから、仕事を”やらされてる感じ”でやるのか、愛情を持ってやるのかでは違う。」
自分の管理次第で、育ち方が変わってくるというプレッシャーを感じながらも、「任されたからには、やりますよ。」と語る牧島さん。熱心に取材へ応える姿から、仕事への責任感と、魚への愛情を持って取り組む気持ちがまっすぐに伝わってくる。
さあ、ご堪能あれ
ここまで読んだら、きっとあなたも一度は食べてみたくなるだろう。天洋丸では現在、オンラインショップにて『雲仙ニボサバしめ鯖食べ比べセット』を販売中だ。
酢につける時間を、10分(レア)・4時間(ミディアム)・24時間(ウェルダン)と3パターンに分け、それぞれを食べ比べできる。みずみずしいレアから、ウェルダンの芳醇さまで堪能して、ぜひお気に入りを見つけてほしい。ニボサバのうま味には、日本酒が合いそうだ~。
また、今はまだ飲食店に向けてのみ卸している『ブライン凍結サバ』を、一般の家庭にも販売していきたいそう。一番の売りは、サバを「刺身」で食べられること。アニサキス(※)の心配があるため、普段あまり食べる機会のないサバの刺し身だが、管理された養殖のサバは、その心配はほとんどいらない。鯖特有の臭みが出ないように生簀から揚げた鯖をすばやく生き締めし、血抜きを処理をして身に血が回らないようにする。それから一旦冷やし、「ブライン凍結」へ。
(※)…プランクトンなどに寄生する虫。人の体内に入ると、激しい腹痛やおう吐などの症状が出る。
「ブライン凍結」とは、約-18℃に冷却した飽和食塩溶液(ブライン液)に、食品をつけ込んで冷凍させる方法。急速冷凍庫を使って冷凍するというやり方もあるが、それよりもさらに早く凍結できる。空気より熱が伝わりやすい液体を使うことで、獲れたての新鮮さを閉じ込めるように素早く冷凍。食べたくなったら解凍して、しっとりとした、とろけるような旨味たっぷりの身をいつでも味わえるのだ。
一匹まるごと真空されて届くため、お手元にとってくれた人が包丁を入れる必要がある。一見難しそうだが、一匹まるごとお届けするのにも理由がある。家族や友人と協力しながら捌くことで、「命をいただくこと」を感じて欲しいと千代太さんは話す。
また鮮魚だと、「急に明日魚を食べたい!」となってもタイミング的な融通が利かないことがあるが、その点ブライン凍結サバは冷凍で届いているため、家族が集まるタイミングや自分達のタイミングに合わせて旨味たっぷりのサバをいただくことができる。
「多くの方に、余すことなく魚を楽しんでほしい」という想いをのせて、皆さんのご家庭に”おいしい”をお届けします。
愛情たっぷりに育てられた『雲仙ニボサバ』、ぜひお試しあれ。
ニボサバ養殖の様子は、天洋丸のYouTubeチャンネルでも発信中。動画はこちらから。
会社情報
- 会社名:
- 株式会社 天洋丸
- 所在地:
- 〒854-0703 長崎県雲仙市南串山町丙9287-3 ( 天洋丸水産加工場・事務所 )
- Tel:
- 0957-76-3008
- Website:
- https://www.tenyo-maru.com/