出会いが育んだ1年。「ful. TABLE& IDEA」が描く、次の物語。
ちょうど1年前、私たちはひとつの新しいお店の誕生に立ち会った。
小さじいっぱいのアイデアで、毎日のルーティンを楽しく。

(オープン時の記事:「小さじいっぱいのアイデアで、毎日のルーティンを楽しく。食のセレクトショップ『ful TABLE & IDEA』」)
あれから1年。
あの場所は、地域の人々にとってどんな存在になったのだろう。
1周年を迎えた「株式会社フルカワ」が手がけるセレクトショップ「ful. TABLE & IDEA(フルテーブルアンドアイディア)」の扉を、再び開けてみることにした。
「はい。じゃあ、始めましょうか!」インタビュアーの声に、代表の古川洋平(フルカワヨウヘイ)さんは、はにかみながらこう応えた。「なんか余計に緊張する始まり方(笑)」
そこにいたのは、1年前の緊張感とは少し違う、1年という月日を経て生まれた温かく、そして少しだけ力の抜けた心地よいチームの空気だった。この1年、どんな道を歩んできたのだろうか。その物語のページを、そっとめくってみよう。
『不安の方が大きかった。挑戦のはじまり』

物語の始まりは、古川さんの心の中にあった、ひとつの「モヤっとした想い」だった。
お菓子の卸問屋を本業とする「株式会社フルカワ」は長崎県大村市の国道沿いにあり、フルカワの入り口には、地域の人々に愛される駄菓子屋スペースがある。
古川:もともと、うちの入り口が駄菓子屋になってて。これを横展開したらどう?って言われてたんです。でもそれよりも、なんか全く違うテイストの発信ができる店舗が作れないかなっていうのが、モヤっとあって。

そんな時、あるナッツ専門業者との出会いが構想に火をつけた。「この業者さんとなら、ナッツの専門店が作れるんじゃないか?」県外では見かけるナッツの量り売りやオーガニック食品を扱う店。それを地元で実現できないか。
しかし、構想が具体的になるほど、大きな壁が立ちはだかる。それは「採算性が取れるのか?」という、事業として当然の問いだった。
古川:この話を社内でした時に、1番言われたところですね。規模も大きくないし、立地は国道沿いにあるけど、なかなかお店作りしていくところでは難しいだろうなと。
新しい挑戦への期待と、現実的な課題との間で揺れ動く心。当時の心境を、古川さんは率直にこう振り返る。「ワクワクよりも、断然不安の方が大きかった」
だが、古川さんの背中を押したものがあった。それは企画や社内の人事に関わってくれているなかまの存在だ。

古川:もし失敗しても、そんなに怪我はしない。それに、自分たちがモヤっとした状態で進めている中でも、いろんな人たちが伴走してくれる。そういう人たちがいるなら、なんとか頑張れるかもって。
不安を抱えながらも、なかまへの信頼を力に変えて、古川さんは未知なる1ページをめくることを決意をした。
『運命の出会いとチームの誕生。「いいじゃん!」から始まった物語』

新店舗オープンを決めたものの、コンセプト固めは難航した。「もんもんとしていた」と古川さんが語る店名会議。そもそも、自身の名前であるフルカワのフルが店名に入ることにすら戸惑いがあったという。
古川:『フル』っていう古川に関連する名前が入ること自体が、えって思ったんです。店舗も別の場所へ構えるし、全く違う方がいいんじゃないかと。
しかし、カラフル(colorful)やジョイフル(joyful)のように「満たす」という意味を持つ「ful」という言葉が、お店の目指す姿と重なっていく。「暮らしに、心に、何かを満たすものを」。後に「テーブルに、小さじ一杯のアイディアを」というコンセプトに繋がるこの名前は、チームの羅針盤となった。

そして、この新しい1ページに刻む、運命的な出会いが訪れる。
当時、愛知県から長崎に移住したばかりの中村将太(ナカムラショウタ)さんだ。きっかけは、「株式会社フルカワ」の求人を見つけ奥様が、「フルカワの求人が出てるよ!」と、言った一言だった。
中村:え、いいじゃん!って。すっごい軽いノリで応募しました(笑)。どこでも適応できる人間だろうって自分のこと自負してるんで(笑)
そのポジティブさもさることながら、彼とお店の間には不思議な縁があった。
中村:実は長崎に来て、1番最初に行ったお店がオカシノフルカワだったんです。子どもたちは先にフルカワの存在を知っていて、後から引っ越して来た僕に、「いいお菓子屋さんがあるから行こう」って言って来たんです!家族4人で歩いて行って。いいお菓子屋さんだねって話していました。
この出会いは、単なる偶然ではなかったのかもしれない。「ful.」という物語に、不可欠な1人の仲間が加わった瞬間だった。

『嵐のようなオープン準備と、手探りの日々』
中村さんがチームに加わってからオープンまでは、まさに嵐のような日々だった。
入社1週間後にはイベントに参加する日々。元介護職とは思えぬ声出しでお客様を呼び込む。その姿を見て、古川さんは「本当に元介護の経験しかないの?」と驚いたという。

しかし、店舗準備は手探りの連続だった。
中村:介護しかしてこなかったので、何をどうすればいいんだろう?と悩んでいたら、社長が『いい感じで並べてって』って(笑)
そんな無茶振りから始まったディスプレイ作り。中でも、商品一つひとつにつけるプライスカード作成時にハプニングを起こしながら。
中村:全部作り終えた後に、『あれ、これって税抜き?』ってなって。8%で税込みで入れなきゃいけないって…。そりゃそうか、って(笑)
月日は流れ、1年を目前に中村さんの環境にも変化が。
当初、中村さんを中心に「ful.」を運営していたが、株式会社フルカワの業務も任されることになり、株式会社フルカワのスタッフでもある甲斐真美(カイ マミ)さんが「ful.」へ来てもらう流れとなった。その環境の変化で、利益に対しても考えるようになり、より当事者意識へと変化していく。
やはり社長の愛あるスパルタを受け育った中村さんは甲斐さんへも愛あるスパルタを送っていた。「できないはなしね!まずはやってみてから考えよう!」中村さんのポジティブでこの前向きな姿勢は見ていてこちらも元気をもらう。
ful.のポイントカードに押す消しゴムハンコを作るとなった時のこと。
甲斐:裁縫するから器用だろうって。でも、ちっちゃいのって難しいんですよ。もう、目も痛いし、頭も痛くなるし…1センチ角もない大きさで作ると言う、無茶振りを受けました(笑)
結局、プロのはんこ屋さんに頼むことになったというこのエピソードも、今では笑い話だ。
100品目以上のカードをすべて作り直すという途方もない作業。失敗の連続。しかし、彼らはそれを温かいチームワークで乗り越えていった。
「プライスカードの失敗が逆にいい経験だったと僕は自分で思ってます。失敗した方が覚えるんで」と中村さんは笑う。
中村:あの時、いろんな人が手伝ってくれて。本当に心を救われました。

手探りの日々は、チームの絆を確かに、そして強く育んでいった。
『1年が育んだもの—それぞれの場所で、未来を描く』

そして1年。「ful.」は、関わる人々にとってどんな場所になったのだろうか。
「今になって、後付けの良さをすごく感じる」と古川さんは言う。
古川:本店(大村市にある株式会社フルカワ)と離れてることで難しいこともあったりするけど、それがいい。環境は関係なく、いい効果がある。そういう場所になってきてるなって
当初の不安は、確かな手応えに変わっていた。その成長を支えたのは、やはりなかまの力だ。
古川:甲斐さんも最初は人見知りするから務まるかなって言ってたけど、隣町で開催される茶市イベントで一緒にやった時に、接客する姿を実際にみて、接客いけるよねって。今では本当によくやってくれて。
甲斐さんは、はにかみながらこう話す。
甲斐:私自身、積極的に接客されるのが苦手で。だから、お客様が聞きたい時にちゃんと対応できる、そういう接客を心がけてます。今はお客様と話すのが楽しいです。
「ful.」は、スタッフ一人ひとりが自分らしく輝ける成長の場にもなっていた。

そして、チームの中心に立つ中村さんの目には、「ful.」の新しい未来が映っている。
中村:「次は、夜に店を開ける『夜フル』をやりたいんです。仕事帰りにふらっと寄って、ノンアルコールビール片手にタコスを食べる、みたいな!
その構想は、聞いているだけでワクワクしてくる。
またこのチームの一体感を象徴する出来事が、ful.のテナントである「uminoわ」の周年イベント「わわわ博覧会」だった。

中村:フルカワの社員さんが、今までのイベントで最多の20人以上来てくれて。本当に嬉しかった。これに超えるイベントないだろうって思いました。
ful.から始まった小さな物語が、会社全体を巻き込み、大きな温かい輪となって広がっている。それは、この1年で育まれた、何より尊い財産だろう。
『物語はこれからも続いていく』
1年前、私たちは「暮らしに、心に、そっと寄り添う空間」の誕生を見届けた。
そして1年後、その場所は、古川さんの葛藤、中村さんとの出会い、甲斐さんのサポートあっての、失敗と笑い、そして一人ひとりの成長という物語を重ね、その言葉に確かな体温と深みを宿していた。
「ful.」は単なるお店ではない。
人が集い、挑戦し、新しい物語が生まれる「場所」へと育っていた。
古川:これからも、僕らがやってるから何かが生まれる。そういう場所にしていきたい。
古川さんの言葉に、チーム全員が力強く頷く。「ful.」の物語は、まだ始まったばかり。これからどんな小さじいっぱいのアイディアが生まれるのか、楽しみでならない。
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