いとなみ研究室

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K&L's factory くじらぐも

本気でぶつかるから、本音で応えてくれる。『放課後等デイサービスくじらぐも 平湯真弥先生』が信じる、心の成長を育むということ。

取材

写真

長崎県大村市。放課後等デイサービス「くじらぐも」の扉を開けると、「ただいま!」という子どもたちの元気な声が響き渡る。宿題に取り組む子、友達とじゃれ合う子、それを温かい眼差しで見守る先生たち。一見、どこにでもある放課後の風景。しかし、ここには子どもたちの「心の成長」を何よりも大切にする、熱い想いを持った先生たちがいる。

その中心にいるのが、児童発達支援管理責任者の平湯真弥(ひらゆまや)先生だ。彼女の支援の根底には、一つの確固たる信念がある。

平湯「子どもたちに合わせるんじゃなくて、本音で向き合うんです」

その言葉の裏には、どんな経験と哲学が隠されているのか。取材を通して見えてきたのは、自身の人生経験をすべて糧にして、子どもたちや保護者、そしてスタッフ一人ひとりと真剣に向き合う、一人の女性の「人となり」そのものだった。

『支援の原点は、毎日開かれる「作戦会議」』

くじらぐもの朝は、スタッフ全員が集まる「作戦会議」から始まる。

平湯「毎日同じ子たちが来るわけじゃないんです。曜日ごとにメンバーが決まっていて、その日の子どもたちの顔ぶれによって、支援のポイントも変わってきますから」

平湯先生はそう語る。くじらぐもでは、子どもたちの特性や相性を考慮し、曜日ごとに設定されている。定員10名という集団の中で、一人ひとりが安心して過ごし、成長できるように。そのためのちみつな計画が、この朝のミーティングで共有されるのだ。

平湯「例えば、言葉を上手に使うことが難しい子がいる日には、『言葉の言い換え』をスタッフ全員で意識します。『うざい』という言葉が出たら、『静かにしてほしかったんだね』と、その子の本当の気持ちを代弁してあげる。それを繰り返すことで、子どもたちは新しい表現を学んでいくんです」

ただ活動を見守るのではない。子どもたちの間で起こるトラブルを最小限に抑え、一つひとつの出来事を成長の糧に変えていく。そのための情報共有と意識統一。それはまるで、試合に臨むスポーツチームのようだ。この日々の「作戦会議」こそが、くじらぐもの支援の質の高さを支える原点なのだ。

『バスケづけの日々と、「母親」になれた日』

平湯先生の支援者としての強さは、どこから来るのだろうか。そのルーツを辿ると、二つの大きな経験に行き着く。一つは、バスケットボールに明け暮れた学生時代だ。

平湯「小中高と、本当にバスケしかしてこなかったですね。練習は厳しくて、今だったら体罰って言われるかもしれない(笑)。でも、辞めようとは思わなかった。きつい練習を乗り越えた先に、チームで勝つ喜びがあったし、何より仲間がいたから」

理不尽とも思える厳しさの中で培われた「忍耐力」と「仲間と乗り越える経験」。それはくしくも、多様な子どもたちが集う放課後デイサービスの現場で、困難な状況に直面した時の支えとなっている。

そしてもう一つの大きな転機が、20歳での出産と子育てだった。

平湯「正直、何もかも初めてで最初は余裕なんてなかったです。周りの友達が遊んでいる時に、自分は子育てに追われて……。必死でしたね」

そんな彼女が「母親になれたかも」と心から思えたのは、長男が高校生になった時だったという。自分の知らない世界で、自分の力で居場所を見つけ、成長していく我が子の姿。その時に初めて、「子育て」という経験が自分自身を成長させてくれたことに気づいた。この「早すぎた母」としてのリアルな経験が、今、目の前の子どもたちや保護者の心に寄り添う力の源となっているのだ。

『「あなたのためを思って」心を育てる支援哲学』

 

平湯「福祉は、医療とは違う。医療が体を『治す』仕事なら、福祉は『心を育てる』仕事なんだと気づいたんです」

平湯先生の言葉に熱がこもる。くじらぐもで働く中で確立されたその支援哲学の核心は、「本気でぶつかる」という姿勢にある。

子どもが問題行動を起こした時、多くの大人は腫れ物に触るように接したり、あるいは頭ごなしに叱ったりしがちだ。しかし、平湯先生は違う。

平湯「『どうせ俺は怒られる』って、心を閉ざしてしまう子がいるんです。でも、そうじゃない。先生も、お父さんお母さんも、あなたのことが憎いから怒るんじゃない。どうでもいいなら、何も言わない。あなたのことを本気で心配しているから、可愛いから言うんだよって、何度も何度も伝えます」

それは、ただ優しい言葉をかけるだけの関係ではない。時には「そんな気持ちなら来なくていい。でも、お母さんはあなたのことを考えてここを選んだんだよ」と、厳しい現実を突きつけることもある。しかし、その根底には常に、子どもの可能性を信じる深い愛情がある。

この「本音のコミュニケーション」は、子どもと家庭の間に新しい信頼関係を築く。親に言えない悩みを先生に打ち明ける子。先生はその想いを受け止め、パイプ役となって親に伝える。そうして、家庭、学校、そしてくじらぐもが三位一体となって、一人の子どもの成長を支えていく。

平湯「子どもたちが『先生、あのね』って心を開いてくれた時が、一番嬉しい。この仕事が天職かもしれないって思う瞬間ですね」

そう話す平湯先生の表情は、誰よりも優しい「母の顔」をしていた。

『おわりに』

取材の最後に、平湯先生はこう語ってくれた。


平湯「私自身、何か大きな目標があってこの道に進んだわけじゃないんです。でも、目の前の子どもたちや家族と向き合う中で、たくさんのことを教わりました。だから、今悩んでいるスタッフにも言うんです。『大丈夫やけん、やってみたら?』って」

その言葉は、子どもたちへ、保護者へ、そしてこの記事を読んでいる私たち一人ひとりへの温かいエールのように聞こえた。

完璧な人間なんていない。大人も子どもも、誰もが悩み、葛藤しながら生きている。だからこそ、本気でぶつかり、本音で語り合う。くじらぐもは、そんな当たり前だけど忘れがちな「人と人との繋がり」を、もう一度思い出させてくれる場所だった。ここは、子どもだけでなく、大人も安心して失敗し、共に成長できる、温かい「心の居場所」なのだ。

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くじらぐも

プロフィール

児童発達支援管理責任者

平湯 真弥

会社情報

会社名:
K&L's factory くじらぐも
所在地:
〒856-0806 長崎県大村市富の原906−1−2
Tel:
0957-46-3396
Website:
https://masterpiece1689.wixsite.com/kujiragumo1689

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