いとなみ研究室

Contents of Report

K&L's factory くじらぐも

協力・応援・提案を共創し、子育てへの「気づき」を生み出す放課後等デイサービス『くじらぐも』

取材

写真(一部くじらぐも提供)

 

「キーンコーンカーンコーン」

一日の終わりを告げる学校のチャイムが市内に響き渡る夕方。
しばらくすると、次々に子どもたちが集まってくる場所があります。

長崎県大村市の豊かな自然のなかにたたずむ放課後等デイサービス「くじらぐも」(以下、くじらぐも)

発達に特性を持つ子どもたちが自分らしさを見つけていくこの場所は、どのような想いで運営されているのでしょうか。

代表であり、「くじらぐも」の創設者でもある古賀一輝さんにお話を伺いました。

「できた!」が聞こえる個別支援

キャンプやハイキングなど、アウトドアスポットとしても人気のある野岳湖公園の入口に位置する「くじらぐも」。

学びづらさや友達作りの難しさなど、発達の特性のある小学生~18歳までの子どもたちを放課後に支援をする国の支援事業の一つです。(くじらぐもでは小学生6年生までと独自の基準で運営)

放課後等デイサービスと聞くと学童保育を思い浮かべる方も多いかもしれません。

しかし、その内容は全く異なります。

大きく違うのは受入人数です。
学童では平均30~40人の子供たちを受け入れるのに対し、放課後等デイサービスでは基本的に10人以下の小集団で受け入れを行います。

1人のスタッフが2~3人の子どもたちに向き合える体制が整えられており、特性を丁寧に見ながら支援を進めていけることが強みです。


特に、発達障害のある子どもたちにとっては、個別に設計された支援が非常に重要な役割を果たしているそうです。

古賀「学童とのもう一つの違いは、個別の支援計画書の作成が義務づけられているということです。子どもたちに一人ひとりの特性と可能性に目を向け、スタッフ間で連携しながら支援を行うことで、子どもたちの成長の幅を広げられる支援の仕組みとなっています」

 

古賀「そんななかで私たちが大切にしていることは、集団の中での個別支援です。集団の中で個を高めていくためには、毎日の集団活動の中身がとても重要になってきます。「何となく・・・この活動は楽しそうだから」などといった曖昧な活動選びではなく、その日に来る子どもたちの特性を考慮し、「どんな活動なら成長を促しながら楽しむことができるのか」といった、根拠をもとにした活動作りを行っています」

古賀「くじらぐもでは活動のなかで使う言葉にも工夫を凝らしています。その理由は子どもたちに活動の目的を理解してもらうためです。
一つ、「心の体操・頭の体操・体の体操」という言葉をご紹介します。例えばドッチボールを活動に取り入れる場合、お友達に応援の言葉を掛けることやボールをチーム全員に回してあげるなど、お友達のために!を目的にして欲しいときは「心の体操として行います!」、作戦やルール決めを話し合うなど、考え方を目的にして欲しいときは「頭の体操として行います!」、と声をかけるんです。
なんとなく活動に取り組むのではなく、子どもたち自身が活動の目的を把握することが成長の幅を大きく左右します」

子どもたちの活動の様子を見ていると、目標に向かって夢中で体を動かしたり、学びに向かう前向きな姿勢がとても印象的でした。

小さな目標でも、子どもたち自身が「できた」という達成感を味わうことが、自己を肯定する力に変わっていくのだと、古賀さんは話してくださいました。

自然や地域を活用した成長プログラム

他の施設と比べても大きな特徴であるのがこの立地。

隣接する野岳湖公園で、綱引きやドッチボール、リレーなど、思いきり身体を動かすことができます。

自然のなかだからこそ、子どもたちは感覚をフルに使って貴重な体験を積んでいけるそうです。
こうした活動は、成長のために欠かせない要素なんだとか。

古賀「デジタルな世の中だからこそ、自然のなかで遊ぶことの価値は上がっています。枝や草や葉っぱを集め秘密基地を作ったり、火を起こしてお昼ご飯を作ったりする経験は、自然と共生することの理解につながります。感覚の一部しか使わないゲームなどでは、クリアしても一時的な自信にしかなりません。その反対で、感覚をフルに使って自然を扱えるようになることは、人間にとって生きる自信につながる経験なんです。自信を積み重ねていく子どもたちにとって、大村の豊かな自然は強い味方になってくれていると考えています」

古賀「室内活動としては、調理活動を積極的に行ってます。人間の生きていくための本能である食欲と関係する、生活の一部にもなる活動です。手作業で感覚も満たしながら、自分の食欲を自分で満たす力をつけていくことも、子どもたちの大きな自信となっていきます」

さらに、敷地内には地域交流の場である「フレカフェ」や手作りお菓子のお店「フレカシ」なども併設しています。
現状「フレカシ」では子どもたちがお店の「お手伝い」をできる仕組みが作られていて、野岳に遊びに来られる人との「ふれあい」の場として時々活用されているそうです。

古賀「くじらぐもには、仲間づくりプログラム・親子プログラム・社会プログラムがあります。お菓子屋さんのお手伝い活動は、そのなかでも社会プログラムとしての活動です。お客さんへの言葉の使い方や態度のとり方を学ぶ中で、心を育ててあげたいという狙いを持っています」

古賀「さらに、社会プログラムの一つとして、他の事業所さんとの交流会も年に一回行っています。少し緊張の高まるような第三者との触れ合いは『ちゃんとしないと!』という子どもたちの意識を高め、いつもの仲間との協力・応援を引き出してくれる貴重な触れ合いです」

成長を加速させるくじらぐもタイム!

くじらぐもには、子どもたちの気持ちや行動の整理をする大切な時間があるそうです。

古賀「当施設では『くじらぐもタイム』という時間を設けています。活動の最後にみんなで集まって振り返りを行うというものです。例えば、「活動の目的を意識できた?」「自分で立てた目標をクリアできた?」などと子どもたちに問いかけながら、その日の良かった点を壁紙に貼って共有していきます。単に「楽しかった」だけでなく、自分の気持ちや行動を整理していくことで、子どもたち自身の『自己理解』に繋げていければと考えています」

そして、くじらぐもが支援のなかで一番重要だと考えているのが家族支援です。

理解ノートを介した日々のやり取りや個別支援計画書の共同作成に加え、味噌づくりや調理活動、ピクニック、山を民間のこうえんにしていく開発のお手伝い活動など、年間に10回以上の家族プログラムを提案させてもらい、保護者さんとの連携を強めています。

古賀「家族支援にも力を入れる理由は、私たちが子どもたち自身に関われる時間が小学生までと限られているからです。その後の子どもを支えていくのはご家族であるため、施設と親が協力や応援し合いながら『子ども理解』を深め、家族の絆を強くすることで子どもの成長を育む環境を整えていく必要があると考えています」

古賀「保護者の方に対しても言葉の使い方を工夫しています。子どもへの支援を理解して積極的に参加していただくためです。面談を「作戦会議」と呼んだり、連絡帳を「理解ノート」と呼んだり。単に言い方ひとつと考えればそれまでですが、言葉は間違いなく思考を形作っている一つの要素でもあるのです。スタッフ同士や保護者の方との言葉を大切にすることが大人同士の理解を深め、さらに子ども理解を深める“気づき”を生み出していくと感じています。言葉を丁寧に使っていくことは、仲間づくりや家族との絆を深めるための提案の一つです」

“卒業”を見据え、人生の土台を作る支援を

最後に、くじらぐもや施設が行える支援は永続的なものではないからこそ、支援の“卒業”を目指していると、その想いを語ってくださいました。

古賀「くじらぐもの最終的な目標は、ご家族に対して子育ての自立をサポートすることです。ご家族が本当の意味で「子ども理解」深めて『卒業』に向かうためには、いかに問題を自分事として捉え、『気づき』を多く作れるかどうかがカギを握ります。「子ども理解」を深めることがどれだけ育てやすさにつながるか、ということを実感してもらう必要があるのです」

古賀「そのため、まずは私たちが日々の支援のなかで子どもたち一人ひとりの特性をしっかりと捉え、長所短所を含めた個性を丁寧に伝えていくことが大切です。子どもたちの直接的な成長を導く支援のなかで、しっかりと「子ども理解」を深めていき、子どもたちの未来を見据え、ご家族と一緒に「協力・応援・提案」を共創し『気づき』を生み出す支援がくじらぐもの使命だと考えています」

支援の本質、子どもたちの未来を見据えている「くじらぐも」。

古賀さんとスタッフの熱い想いが詰まったこの施設では、集団のなかでの個別支援、仲間づくり、家族との連携など、一人ひとりの子どもに合わせた成長要素がぎゅっと詰まっています。

大村の豊かな自然のなか、野岳湖公園に耳を傾けると、「できた!」という子どもたちの元気な声が今日も響いています。

 

その他の記事は下記からご覧になれます。

くじらぐも

会社情報

会社名:
K&L's factory くじらぐも
所在地:
〒856-0806 長崎県大村市富の原906−1−2
Tel:
0957-46-3396
Website:
https://masterpiece1689.wixsite.com/kujiragumo1689

Field of Research

すべてのレポート

業種別レポート一覧

ジャンル別レポート一覧

会社別レポート一覧