いとなみ研究室

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株式会社 天洋丸

みなとの未来を明るく、海の仕事をおもしろく。『株式会社 天洋丸』が実践する新しい漁業のあり方

取材・写真

取材

天洋丸 網エコたわし

漁業の仕事・まちの魅力をもっと深く、おもしろく。

雲仙市南串山町の企画プロジェクト系漁業会社・天洋丸は、おもしろい“こと”で溢れている。その根底にあるのは、漁業の課題を解決すること、そして南串山町のまちの魅力を知ってもらうこと。

アイデア大将率いる天洋丸の気になる企画、参加してみたいプロジェクトについて、知れば知るほど「あれ、漁業ってなんか楽しそう?」と思わずにはいられない。

天洋丸のユニークな発想から動かされる“こと”は、もしかすると、誰かの人生やまちの未来を変えるかも。代表の竹下千代太さんに、そんな可能性を感じるプロジェクトの数々をご紹介いただいた。

天洋丸代表・竹下千代太さんの半生を振り返った記事はこちら。

株式会社天洋丸の、組織の魅力にまつわる記事はこちら。

期間は限定、経験は一生モノ。「一年漁師」

漁業に興味はあっても、自分に向いているのか、足を踏み入れたらずっと漁師として働き続けることになるのか、不安が拭えずに選択肢から外してしまう人もいるはず。そんな理由で漁師を諦めようとしている人へ向けて考えられた、期間限定の雇用の仕組み「一年漁師」

タイトルを一目見れば、企画の大部分がわかる、そのキャッチーさも秀逸だ。

天洋丸 一年漁師

竹下「最初は3年くらい居てくれたらなって思っていたのですが、インパクトがあるので“1年”にしました。漁師の人材不足と言っても、そう簡単に自ら漁師になってくれる人はいないですしね。『天洋丸で漁師をやろう!』といった一本釣りみたいなやり方にこだわらないで、とにかく漁業をもっと広める・知ってもらうことを目的に取り組んでいます」

ゆるいスタンスで取り組む天洋丸は、人材募集に固執せず、多方面から漁業に興味を持つ人を受け入れる。たとえ参加者が将来他の職に就いたとしても、一年漁師で味わえる経験は特別なもの。仕事をする上でプラスになる部分もあるだろう。

漁業へのハードルを低く、少しでも接点を持ってもらいながら、地域とも連携して繋がりを深める。そうしてどんどんネットワークを広げ、まずは漁業の関係人口・漁師を志す人を増やすのだ。

竹下「一年漁師を始めて、今まで3人受け入れました。1人目は男性でしたが、あとの2人は女性。当初はコロナの最中だったので、時間ができた企業や飲食店の従業員、休学中の学生などを想定していましたね。今ではもう関係なく、人生の目標を探している子、漁業に興味があるけど迷っている子など、さまざまな人に来てもらいたいです」

天洋丸 一年漁師

また、外部から新しい風を入れることで、会社側にも変化が。続けて女性を雇用したことで、トイレの設置や休暇制度など、会社の就業規則を見直すきっかけに繋がった。

この一年漁師の取り組みについては、第25回「全国青年漁業者交流会長崎県大会」で最優秀賞受賞、第29回「全国青年・女性漁業者交流大会」で農林水産大臣賞を受賞……! 一年漁師をもっと広げて継続できるようにという目的であると同時に、どこかの漁業者が真似してくれることにも期待しているそうだ。

商品開発に漁具ロボット導入、新会社「おおいた天洋丸」の設立

天洋丸は数々のアイデア商品を開発する。漁に使う網を再利用した「網エコたわし」、バナナチップやココナッツチップと厳選した橘湾産煮干しを合わせた「橘湾のOYATSU」など、スタッフや外国人技能実習生たちとの関わり合いの中で次々にストーリーが形になっていくのだ。

天洋丸 網エコたわしを持つえりさん

竹下「新しいことをやるのは、“仕事を面白くしたい”っていうのもあるんですよね。同じことをずっと繰り返しこなすよりも、やったことのない新しいことをやる。養殖をやったり、扱ったことのない魚種をやってみたり。初めてやることを嫌う人もいるし、同じことを繰り返した方が無難じゃあるけど、チャレンジこそが仕事を面白くするのかなと思ってます」

また、天洋丸は作業効率化・設備への投資にも余念がない。なんと今、開発しているのはロボット……! まき網漁業で重要な灯船の役割を、「漁火(いさりび)ロボ」が海上で担い、集魚灯で魚を留めておいてくれるのだ。

竹下「要は省人化です。人が担っている沖での作業の一端をロボットにやってもらおうということで、天洋丸も共同で漁具開発に取り組んでいます。すでに、1号機・2号機を作り、今は3号機を試験的に活用中。あとは耐久性の問題をクリアすれば、実用化できるところまで来ているんですよ」

実際、この漁火ロボのおかげで灯船の作業負担が格段に減っているのだそう。漁業の世界でも、最先端でスマートな働き方が見えつつあることに驚きだ。

天洋丸 会議の様子

長崎県雲仙市で、最先端設備での漁業や新しい企画開発に携われる環境がある。こういった他にない経験ができることも、これから漁業を志す人にとっては魅力的に映るだろう。

そしてさらには、天洋丸は県外にも進出している。

竹下「交流のあった漁業会社が、後継者不足や漁獲量が減ったことで、廃業しようと思うって相談を受けました。『いや、それなら僕にやらせてくれ!』と言って、新会社として『おおいた天洋丸』を設立したんです。そこの船主にはそのまま社長になってもらって、うちから出向で社員を派遣したりしてますね」

商品開発、漁業環境の改革、そして他地域にも展開を広げる天洋丸。これらは全て、水産業の価値を上げていくこと、人材不足の問題を解消していくこと、そして事業継承などによりローカル漁業の消滅を防ぐことにも繋がっていく。

天洋丸 作業の様子

「獲ってなんぼ」と目先の利益だけを追いかけるのではなく、水産業界の課題に多方面からアプローチする天洋丸は、まるで新時代の漁業会社のあり方を体現しているようだ。

漁業から地域全体のまちづくりへ。「みんなとみなとプロジェクト」

天洋丸は今後の展開として、新しい加工場の設立なども計画中。おもしろい“こと”はこれからも生まれていきそうな予感だ。

天洋丸 スタッフとの雰囲気

竹下「始めたばかりの養殖も、これから本格的な出荷・販売が待っています。それ以外にも寮の空き部屋をゲストハウスにしようとか、新しい煮干しの加工場には自社の直売所を併設させようとか。いろんな展開が進んでいくので、漁業以外のスキルを持った人材が必要なんです」

課題は人材不足だけでなく、設備の老朽化にも多くの漁業会社が直面する。機械も、人手も、進んでいくためにはどちらも大事なものだ。

そして、これらのユニークな取り組みは、水産業界から地域にまで影響が及び始める。

天洋丸 網作業の様子

竹下「煮干しは地場産業だから、魚を獲るところだけが生き残っても結局続かないんですよね。関連産業もちゃんと生き残ってくれないと。もっと言えば、直接関連してないけど、農業にしろ観光にしろ他の産業も残ってくれなきゃ生活する上で不便じゃないですか。そう考えると、地域自体が存続しないと漁師も生き残ることは難しいんですよ」

自分たちの会社にだけ漁師が増えれば良いわけではない。自分たちの会社だけがうまくいけば良いわけではない。それは漁業の世界に限った話でなく、地域についても同じことが言えるのだと竹下さんは語る。

そんな流れから、天洋丸を中心にしたまちづくりプロジェクトが始動。「みんなとみなとPROJECT」だ。

2021年度、長崎県の「ひとが創る持続可能な漁村推進事業」のモデル地域となった雲仙市南串山町。地域の京泊漁港周辺を中心に、行政主導ではなく地域住民の手でまちのみらいを作っていこう、と活動がスタートした。

天洋丸 えりさん 取材の様子

竹下「いろんな農家さんや地域の人との繋がりの中でこのプロジェクトができました。雲仙市の農漁村整備課に協力してもらい、地域おこし協力隊として“みなみくしやまライター”を募集したんです。このプロジェクトの中心事務局として、今までの構想を広げたり、一つずつ実現していってもらいたいなと思ってます」

同じ雲仙市でも、小浜地区ではデザイナーやアーティストのIターン移住者が増えている。そこからインスピレーションを受けた竹下さんは、待ち時間やシーズンの差が出る漁師の働き方に、時間の融通が利きやすいクリエイター職を掛け合わせていきたい「半D半漁(D=デザイナーやクリエイター)」構想もあるのだそう。

漁師への選択肢を増やし、さまざまな生き方を受け入れる方針から、結果的にまちへの関わり方も多様になっていく。南串山町から漁業に、まちづくりに新しい波を起こしていく天洋丸は、魅力的なことを生み出す人材によって支えられているのだ。

天洋丸 こと メイン

会社情報

会社名:
株式会社 天洋丸
所在地:
〒854-0703 長崎県雲仙市南串山町丙9287-3 ( 天洋丸水産加工場・事務所 )
Tel:
0957-76-3008
Website:
https://www.tenyo-maru.com/

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