命を育み、届け、伝える——FUKUNOTANEが描く“魚の学校”
長崎県・南島原市の海辺。静かな潮騒の中に、未来へと続く物語が息づいています。
株式会社FUKUNOTANEは、この地でトラフグの稚魚生産と養殖を担う、海に根ざした企業です。
一見、水産関係の会社という印象を持つ方も多いのではないでしょうか。しかし、FUKUNOTANEの仕事の本質は、魚を育てることだけにとどまらず、魚の“命”の物語を、次の世代に“つなぐ”こと。それこそがFUKUNOTANEの、今の、そしてこれからの挑戦です。
魚から学ぶ、魚と生きる——教育の現場へ
FUKUNOTANEが近年 力を入れているのが「教育」です。
代表的なものは、主に島原半島内の小中学生に向けて配布されている『おさかなノート』。
これは、(一社)島原半島観光連盟、日本財団 海と日本PROJECT、日々研究所株式会社と連携して制作した、魚の世界を体験的に学べる教育ツールです。魚の体のつくりや育ち方、地域の水産業について、ダテユウイチさんの親しみやすいイラストを通して学ぶことができます。
FUKUNOTANEはこの『おさかなノート』を使って、地元の小中学生とともに学ぶ授業を展開。そこには単なる“知識”ではなく、“手触り”のある学びがあります。
さらに、地元の高校生たちと特定技能外国人との交流、県内大学の魚料理研究会との体験交流など、年齢や国籍を越えた出会いの場が広がっています。大学生が小中学生に魚のさばき方を教える光景も自然と広がり、年齢の差も関係なく、“ともにいる”という空気がそこにありました。
『おさかなノート』についての記事はこちらから。
修学旅行の新しい形を、海辺から
そんなFUKUNOTANEが、2025年5月、新たな一歩を踏み出しました。兵庫県からの中学生を迎え、初の修学旅行を受け入れたのです。
2週間後、大阪府からも中学生が来訪。修学旅行での一日は、生徒たちにとって滅多にない“魚と向き合う一日”でした。
この修学旅行が他にない特別な体験となる理由は、FUKUNOTANEの“現場力”にあります。
種苗生産から、稚魚の養殖、そして加工・出荷までを一貫して担うFUKUNOTANEだからこそ、生徒たちは「魚の一生」を丸ごと体感できるのです。
養殖場では、トラフグの餌やりや触れ合い体験。命の温かさに、目を輝かせる子どもたちの姿がありました。そして加工場では、アラカブ(カサゴ)を一人一匹、自らの手でさばく体験。包丁を握る手はぎこちなく震えつつも、命をいただく緊張と感謝がこもっていました。
「おいし〜〜!」「人生初のとらふぐだ〜!」「青春だ〜!」
笑顔と驚きが交差するその場所には、教科書には載っていない、生きた学びがあふれていました。
南島原市は修学旅行の新しい形として、地域の水産業や農業といった一次産業を活かした体験型プログラムに力を入れています。FUKUNOTANEはその核のひとつとして、子どもたちに「海と共に生きる」リアルな姿を伝えています。
「育てること」は、「伝えること」
FUKUNOTANEの代表取締役・河原邦昌さんは、こう語ります。
「ただ魚を育てて売るだけではなく、その命の旅路を子どもたちに知ってもらいたい」
FUKUNOTANEではInstagramでも日々の現場の様子を発信しており、インターンシップのカリキュラムの中にもInstagramでの発信が組み込まれています。出荷の風景、養殖場でのとらふぐのお世話、社員や研修生との会話……どれもが「命と向き合う」日常であり、その奥には「この仕事を次の世代に残したい」という熱い思いが込められています。
南島原という小さなまちで、世界へつながる食の未来を育てていく——その根底にあるのは、“人を育てる”という視点です。FUKUNOTANEでは現在、外国人技能実習生やスタッフの育成にも力を入れており、仕事を通じて互いに学び合う文化が自然と根づいています。
命に触れ、向き合い、敬意を持って扱う。その姿勢は子どもたちだけでなく、大人たちにも深く刺さります。修学旅行に限らず、企業研修やインターンのような形で関わる人も今後増えていくに違いません。
海と生きる人たちの物語に触れて
海の恵みは、単に「商品」ではありません。そこには、時間、手間、そして人の想いが込められています。そして、その想いを「伝える」という いとなみ こそ、FUKUNOTANEがもっとも大切にしていることなのです。
「命を育むことが、未来を育てることにつながる」
そう信じて行動し続ける姿に、海の豊かさと人の可能性の両方を感じずにはいられません。
子どもたちが笑い、魚をさばき、食べ、「おいしい」と言えること。 その裏に、育て、届け、伝え続ける人たちがいる——。
FUKUNOTANEで育まれるこの風景が、もっと多くの場所へ、届きますように。