いとなみ研究室

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株式会社 FUKUNOTANE

『生きているという感覚と、命を感じる日々』 さかな博士育成プロジェクト 前編

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さかな博士育成プロジェクト

 

2024年6月3日、南島原市の南有馬中学校にて、一般社団法人 島原半島観光連盟と日本財団 海と日本PROJECTによる『さかな博士育成プロジェクト』が始動した。

日本財団 海と日本PROJECTは、海の現状を、子どもたちをはじめすべてのひとたちが「自分ごと」として捉え、豊かで美しい海を次世代に引き継ぐために、海をとおして人と人とが繋がることを目的として取り組んでいる。

この日のプロジェクトの内容は先輩”さかな博士”である河原 邦昌さんの講話。
河原さんが代表を務める株式会社 FUKUNOTANEは、南島原市南有馬町の海に突き出た場所で、トラフグやヒラメなどを孵化させる過程から稚魚、成魚になるまで育てている種苗会社だ。
さらに、種苗生産を行っている養殖場だけでなく、育てた魚を刺身などに加工する加工場を持っており、『さかな博士育成プロジェクト』の育成場所として選ばれたのも、この唯一無二さが理由だ。

5時間目、総合的な学習の時間を利用した『さかな博士育成プロジェクト』は、河原さんの「これは授業じゃないから。」という言葉でスタートした。

価値を見せ、価値をつけ、価値を高める。

「これは授業じゃないから。」の言葉どおり、机と椅子は全て廊下に搬出。机と椅子に代わり、重量のある発泡スチロールが数箱、教室にやってきた。

発泡スチロールのなかにはなんと、見慣れた魚から珍しい魚まで勢揃い。

「これは分かる?タイ。これはすぐ近くで獲れる。」
「これは分かります?イサキ。いまがちょうど旬。」
「これは何か分かりますか?名前を当てられたら”さかな博士”認定ですね。」

株式会社 FUKUNOTANEのスタッフ 永田 豊さんが、魚の正式名称や美味しい食べ方、豆知識など1匹ずつ丁寧に説明すると、生徒たちは驚きや納得の反応を見せた。

さらに、これらの仕入れ価格と販売価格を明かした。
魚の販売価格は色々だが、1kg1,500円から2,000円。なかには1kg100円ほどの値段の仕入れの魚もあり、平均より安価となる理由は、味は美味しくても食べられる機会が少なく、魚の価値が知られていないからだそうだ。

「今聞いていたように、知れば本当美味しい魚がたくさんあって。見えてない価値って分かるかな。例えばこのおさかな、これが1kg50円だったかな。美味しいんだよね。でもこれって見えてないよね、みんなにね。」

見えていない価値を見せるということ。
ものに価値をつけるということ。
「欲しい!」と言ってもらえるように表現して価値を高めるということ。
それが仕事だと河原さんは話す。

「だから、今は値段が安いけど、もしかしたら皆さんが頑張ったら、この50円が5万円になるかもしれない。価値を高めるということ。そのためには、やっぱり知らないといけない、その魚が持っている潜在能力を。」

生きているという感覚と、命を感じる日々

日本だけでなく世界中で起こっている気候変動の影響を受け、魚の餌となる魚粉の原料(カタクチイワシ、アジ、スケトウダラ)や、大豆油カスの原料(大豆、トウモロコシ、小麦粉)にも被害が出ている。これらの魚や農作物は、魚の餌でもあるが、人間の食料でもある。そうなった場合、魚の餌になる原料がどんどん減っていくというわけだ。

魚や農作物を育てる一次産業の従事者は年々減少しており、令和2年(2020年)には、30年前の平成2年(1990年)から、半分以下にまで減ってしまった。

中学3年生の生徒たちに向けて、河原さんはこう話した。

「将来どんな仕事をするのかな、どんな業界に行くのかな。医療関係に行きたいとか、先生になりたいとか、そういうことをぼんやりと考えて、まだ答えも見つかっていないひとがほとんどだと思うけど、私も今もまだ『そんな仕事あったんだ』みたいなひとと出会うこともあります。」

「世の中に、それ面白そうだなと思う仕事があったりします。」

「そこでひとつ提案です。」

「一次産業って、生きているっていう感覚と、命を感じることができる日々。」

「死ぬこともあります。水槽全部、50万匹とか100万匹とかまとめて死ぬとき。何回もないですよ、事故です。だけど、もう最悪。本当に一番嫌な作業です。」

52歳になった今でも新しい仕事と出会う河原さんが、15歳が想像する”将来の夢”の選択肢を広げた。
一次産業の従事者を増やすためにキラキラした良い面だけを見せるのではなく、等身大でリアルな言葉を綴る河原さんの姿が、生徒たちの心に刺さったように感じた。

時には、自分で育てた魚を自分で殺さないといけないこともある。そのようなことも含めて”生きている”ということを感じることができる一次産業。
はじめは何もないところから命を生み出す一次産業。
河原さんは、その部分に誇りや喜びを感じている。

河原さんから、あなたたちへ。

あなたたちへ、あなたたちの子どもたちへ、またその先の子どもたちへ。

河原さんから伝えたいことがある。

美味しいの笑顔を見たいから。
美味しいの笑顔をもっとたくさんつくって平和になってほしいから。
美味しいを昔から引き継いだから。
美味しいを100年後、1000年後にも伝えたいから。

そのために、先人から受け継いだ美味しいのバトンを、次の世代へ渡したい。

“美味しい”を通してみんなが幸せになるように、日々、魚と向き合う河原さん。
生徒たちにも想いが伝わったようだ。

今日は、魚たちが教室にやってきたが、次回は生徒たちが養殖場へ向かう。
“さかな博士”になるまで、あと少し。

会社情報

会社名:
株式会社 FUKUNOTANE
所在地:
〒859-2411 長崎県南島原市南有馬町甲1213
Tel:
0957-85-2112
Website:
https://www.fukunotane.net/

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