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株式会社 フルカワ
「小さじいっぱいのアイデアで、毎日のルーティンを楽しく。食のセレクトショップ『ful TABLE & IDEA』」
「今日の夜ごはん何にしよう。」
なにかアイデアが欲しいなあ。そんなときにふらっと寄ると、スーパーでは見かけないような珍しい食料品が並んでいる。
「こんなの初めて見た。使ってみようかな。」
”ちょっとしたアイデアで毎日を楽しくしたい”という想いから生まれたのは、町のお菓子屋さんが手掛ける食のセレクトショップ「ful TABLE & IDEA」です。
三角屋根に、白い大きな「わ」の文字。東彼杵ICの交差点から大村方面へ進むと見えてくる特徴的な建物は「Uminoわ」。2022年、東彼杵町の複合施設としてオープンしました。
そんな「Uminoわ」はこの度、リニューアルします。新しくテナントを構えるのは、食のセレクトショップ「ful TABLE & IDEA」。海外の食料品・お菓子をはじめ、オーガニックナッツや、素材100%のナッツペースト、ドライフルーツなど、ちょっぴり珍しい食品を取り扱います。
手掛けるのは、大村市に本社を構える菓子問屋「株式会社 フルカワ」。70年以上にわたって、長崎県を中心にお菓子の卸しや小売りを行ってきました。“子供たちに夢を、大人たちに思い出を”というスローガンのもと、子供からお年寄りまでたくさんの人をお菓子の力で笑顔にしてきたフルカワ。そんなお菓子屋さんの代表 古川洋平さんがいま、新しい挑戦を始めます。
菓子問屋としての可能性を広げたい
構想を練り始めたのは、古川さんが会社の代を引き継いだ三年前。当時抱いていた菓子問屋としての将来に対する不安が、挑戦のきっかけとなった。
古川「お菓子の流通をやっていて、単価も利幅も高くないし、薄利多売の業界でずっと昭和からやってきて。お菓子の持ち味的に、面白いとか、そういうのはもちろんあるけど、業界的に難しさもあって。だから、職起点で選択肢を増やせたらなっていうのがひとつあったと思います。」
単価が決して高くはないお菓子の卸しだけでは、将来生き残っていくのは難しいかもしれない。その危機感から生まれたのが、「ナッツの専門店を展開する」という挑戦だ。
「まだ九州ではあんまり流通していないナッツのメーカーさんと取引が始まったのが、一つのきっかけでした。うちは、問屋としていろんな商品の品ぞろえをしているので、商品のカテゴリーに特化した専門ショップができないかなって思って。」
様々な種類のナッツを取り扱う業者と取引をしていることから、「これなら専門店ができるのでは」と、菓子問屋としての可能性を感じた。
様々な選択肢を提供したい
古川さんの挑戦を後押ししたのは、もう一つの危機感だった。
フルカワが扱う昔ながらのお菓子は、添加物を含むものが多い。それに対して近年は、オーガニックなど素材にこだわった商品の流通が盛んになってきている。
「うちが扱っている商品が、今後受け入れられなくなってくる危機感みたいなものを感じて。長崎だと、そこまで意識の高い消費者が多いとは思わないけど、やっぱりそういう風潮があるなって感じたときに、売るモノがなくなるんじゃないかと思いました。」
健康に気を使った商品を扱う業者に対して、羨むような、憧れの気持ちを抱いていた古川さん。しかし同時に、「自分たちが扱う商品への需要はなくなっていくのかもれない」という焦りを感じた。
しかし、古川さんはあることに気づく。
「いろんな選択があって、その中から選ぶことができるっていう状態が一番いいと思いました。輸入品の専門店とか、地元産のお菓子、ご当地モノ、お土産品。そういったキーワード専門店とかは、うちはできるのかもしれないって。」
様々な商品を扱う問屋だからこそ、選択肢を提供したい。そう思いはじめたタイミングで、挑戦を応援してくれるメンバーと出会い、Uminoわリニューアルの話を耳にする。
「自分はどっちかというと、自発的に手を上げて『やります!』って言えるタイプじゃないんです。自分一人でやろうとしちゃうと、うまくいかないっていう特性みたいなものがあって。」
「だから、あんまり自分から出ていくより、流れに沿って、その時に出会った人とか、選択肢に向き合えるかどうかで、やるかやらないか判断する。それが自分にとって一番自然なんだろうなと思います。」
Uminoわリニューアルに伴って、利用できる物件が巡ってきたことと、夢に向かって一緒に並走してくれる人たちとの出会いが、古川さんの背中を押した。最終的には、古川さん自身がチャンスをつかみ、決断することができたからこそ、こうして構想を形にすることができたのだ。
毎日を楽しさで満たそう
今回、「ful」のロゴを作成したのは、デザインアルジュナの笹田さん。古川さんの同級生だそうだ。
「笹田にはね、もともと、ナッツの専門店の話を一年前にしてた時があって、そのときに、もしお店をするんだったら、店舗とかロゴとか相談したいって言ってたんですよ。素人の自分がやるよりもプロにお願いしたほうがいいって思って。」
コンセプトを決める段階から一緒に取り組み、それを軸にデザイン変換をする。いくつものデザイン候補から、コンセプトに近いもの、クライアントやユーザーに浸透しやすいものを選んだという。
「“小さじいっぱいの、暮らしのアイデア”っていう、来た人がアイデアだったりモノだったりを持って帰れるような場づくりにしていきたいな。ちょっとしたアイデアとかで料理がこんなにおいしくなるよって伝えたい。」
「小さじいっぱいの、暮らしのアイデア」、これがお店のコンセプトだ。訪れた人にちょっとしたアイデアを提供して、毎日のルーティンを楽しさで満たす「ful」。uの字をスプーンに見立てた、シンプルなロゴが完成した。
「料理人たちの目線が入った品ぞろえとかを入れ込んでいけたら。例えばワークショップをするにしても、一般の人と結構バリバリの料理人が、素朴な料理で楽しむみたいな、入り混じる感じで、発見があったり出会いがあったりすると考えたら面白いな。」
シェフやパティシエなどの料理人と、一般のお客さん。立場や環境が違う人同士が交流する場をつくっていきたいと語る。そう思うようになったのは、古川さんが、“あること”に気付いてからだった。
「うちの会社の一階にセレクトショップがあるんですけど。特殊だなって思ったのが、子供から大人まで来るけど、プラス、企業人(業者)まで入り混じるんです。その人たちが交流するわけじゃないけど、同じ場所を通るっていうのが、すごい不思議だなと思って。」
「大人は、子供たちがここで買い物して、わちゃわちゃしてるのを見たりする。逆に言えば子供たちからしたら、いつも行ってる駄菓子屋にスーツの大人たちがいる。で、あの人はお菓子のメーカーの社長さんだったりする、みたいな。そこはうちの特性としてはすごく面白い。」
お菓子メーカーのサラリーマンと、子供たち。自社のセレクトショップが、立場も環境も違う人々が入り混じる場所として機能していると気づいたとき、「ful」への想いが生まれた。
「地元でも、こだわった調味料とか、選択肢をその場でうちらしく提供していけたら。そこに一般のひとと、プロの料理人が関わるような感じ、っていうところをまずは目指したいと思います。」
笹田「友達だからとか関係なく、どの仕事も同じなんですけど、成功してもらいたい。お客さんも、『あそこに行けば今日の料理がこんな感じになるんじゃないか』みたいな、想像を掻き立てるようなお店として浸透していってもらえばいいなと思いますね。」
多様な商品を扱っている問屋だからこそ、提供できる“選択肢”がある。たくさんの商品の中から、お気に入りを見つけてほしい。駄菓子屋でお菓子を選ぶ子供たちのように、ワクワクした気持ちで。
「子供たちに夢を、大人たちに思い出を」。大人たちも置いてけぼりにしたくない、菓子問屋の想いが詰まったお店が誕生しました。子供の頃のワクワクがよみがえってくる、そんなセレクトショップは5月16日オープンです。