故郷とつながる南島原の日々。FUKUNOTANEで育む新たな未来。株式会社FUKUNOTANE・ディンティ・ハンさん。

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株式会社FUKUNOTANE

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南島原市南有馬町で主にトラフグやヒラメの陸上養殖を行っている株式会社FUKUNOTANE。 そこに、故郷を遠く離れ、特定技能生として毎日の仕事に向き合う女性がいます。ベトナム出身のディンティ・ハンさん。 FUKUNOTANEでの日々、故郷への想いを語ってくれました。

家族を故郷へ残し、約3,000㎞離れた南島原の地へ

1986年生まれのハンさんの故郷は、ベトナム南部に位置するファンティエット。 ベトナムで最も人口の多いホーチミンから約4時間ほど列車に揺られた場所にある海辺の町です。

ハン 産まれてから16歳まで、ファンティエットという場所で過ごしました。リゾート地ではあるけど、海沿いには漁村が点在している落ち着いた場所。私の大好きな故郷です。中学校卒業後は、高校・大学に通うためにファンティエットから離れ、ホーチミンという場所で学生生活を送っていました。大学卒業後は自分の希望通り事務関係の仕事に就くことができ、1年間働きました。結婚を機に退職し、その後は旦那さんと一緒に魚や食料品を販売する小売業で生計を立てていました。しかし、不倫や金銭面でのトラブルがあり33歳で離婚。家や車などの資産を売却しなければいけなくなり、子どもたちを連れてホーチミンの実家に帰ることになりました。当時は大変なことばかりで、今振り返ると結婚したことを後悔することもありますが、12歳と14歳になる2人の子どもに出会えたことは私のなかでかけがえのない宝物です。

人生の大きなターニングポイントを迎えたハンさんは、2人の子どもを育てていくため、日本への出稼ぎを決意します。

異国での新しい始まり。技能実習生としての第一歩

ハンさんが就労ビザを取得して日本へ飛んだのは2020年。34歳の時です。 縁あって、南島原に会社を構える株式会社FUKUNOTANE(※当時は㈲島原種苗)で、技能実習生としての生活をスタートさせることになりました。

ハン 当時はあまり選択肢がなくて、この会社に就職が決まったのも偶然のことです。家族と離れる不安や寂しさばかり抱えていましたが、FUKUNOTANEの従業員さんはみんな優しく接してくれて、徐々に職場に慣れることができました。今ではこの会社と出会えてとても良かったなと感じています。技能実習生でいられる期間は3年間だったので、日本に在留できるように特定技能の試験を受けなければいけませんでした。試験に合格するために、河原社長と事務の松田さん(2024年8月退職)が毎日仕事終わりに勉強に付き合ってくれ、無事に合格。今後も5年に1回ある試験がありますが、ひとまず、ここで継続して働けることに安心しています。

最初は言語の壁があり仕事を覚えることに苦労したといいますが、現在では後輩に教えられるほどに技術を積み、養殖場での作業を担当しています。日々の業務では、トラフグの歯切りや餌やり、選別、水槽の掃除や温度管理を行っているそうです。

ハン 養殖場の仕事のなかで一番好きなのは、トラフグの歯切りです。最初は習得が難しかったですが、手先の器用さを活かして今ではベテランの域に。慣れてない後輩にやり方を教えられるのも一つのやりがいになっています。

故郷に似た南島原の自然と、人の温かい絆に支えられて

故郷から遠く離れた地で日々仕事に打ち込むハンさん。その心を支えているのは、自然豊かな南島原の地と、FUKUNOTANEでともに働く従業員の存在です。

ハン 南島原の海と町の静かさはどことなく故郷と似ていて、毎日私の心を癒してくれます。そして、日本に来た当初から変わらず接してくれる会社の人は何よりの支えです。特に社長は本当に優しくて、仕事や生活面、家族のことまで、まるで自分のことのように気にかけてくれています。地域の人も温かくて、時々立ち話をしては私の近況を聞いてくれます。

株式会社FUKUNOTANEでは、2024年10月現在、ハンさんの他にも6人の留学生が働いています。 ハンさんと同じように故郷を離れて働くメンバーにも少しお話を聞いてみました。

FUKUNOTANEをどう思っていますか?

留学生A 毎日楽しく働いています。

留学生B ハンさんと同じように、特定技能試験を受けてまた5年間ここで働きたいです。

留学生C 愛媛の養殖場で働いてたこともあるが、今の方が楽しく働けている。

留学生D みんなが優しくて安心できる。ずっとここで働きたい。

好きな日本語は?

留学生A 一期一会

留学生B あいしている

留学生C 真面目、頑張ってください

留学生D 考える

将来の夢は?

留学生A インドネシアに帰って、養殖業やレストランをやりたい。

留学生B 結婚して、旦那さんと一緒にまた日本に来たい。

留学生C ベトナムに帰って日本語の先生になりたい。

ハン 他の留学生は22歳前後で私よりずっと若いのでわが子のように感じます。みんな愛情深くて家族のために働いている子たちばかりだから、寂しさや苦労も共有できる同志のような存在かな。休みの日には一緒に家の掃除をしたり買い物に行ったり。時間がある時は私が料理をふるまうこともありますよ。日本に帰ってから故郷に残した子どもたちに会えたのは去年帰省したときの1回だけで。毎日テレビ電話はしているけど、家族や故郷への恋しさは常に感じています。そんななかで共に働き、生活している留学生は本当に心の支えです。私を頼って仕事のことを聞いてくれたり、手作りのご飯を美味しそうに食べてくれるみんなには感謝しかありません。

最後に、ハンさんのこれからのこと、将来に思い描く夢を聞きました。

ハン 仕事での今の目標は、魚を捌く加工場に行くことかな。でも、最終的な夢はやっぱり、ベトナムに帰って大好きな子どもたちと一緒に住むことです。実家の近くに家を建てて、FUKUNOTANEでの経験を活かした日本のお刺身を売る店を持てたら最高かな。だから、今はこの会社で一生懸命働いて、夢のためにコツコツとお金を貯めていきます。まだ夢を叶えるのは先になりそうだけど、仕事はもちろん、私の人生も詰まったこの会社で、みんなと一緒に成長していきたいなと思います。