
人をつくり、生きる場をつくり、笑顔をつくる
「よく、75年間続いてきたなと思いますよ。」
そう静かに語るのは、株式会社フルカワ会長・古川芳和さんだ。
淡々とした口調の中に、75年という時間の重みが滲む。
会社を続けることは、決して当たり前ではない。
その積み重ねの先に、いまがある。
昭和26年1月。
佐世保市下京町で、資本金40万円の菓子卸売業として「有限会社古川兄弟商会」は始まった。

戦後の混乱期。
暮らしは決して豊かではなかったが、
お菓子は人の心を少しやわらげ、
人と人の間に自然と会話を生んできた。
「商売というより、人との関係を続けてきた感覚でしたね。」
その感覚は、やがて会社の土台になっていく。
続いてきた理由は、「人」だった
昭和42年、長崎支店を開設。
昭和48年には株式会社フルカワとして新たな一歩を踏み出す。
平成、令和と時代が移り変わる中で、
業界構造は大きく変わり、デジタル化の波も押し寄せた。

「助けられた部分は、本当に多かった。」
会長はそう振り返る。
先代の判断、社員の踏ん張り、取引先との信頼。
そのどれが欠けても、75年は続かなかっただろう。
平成21年の合併、
平成26年の大村への拠点移転。
節目ごとに、決断があった。
「続けるために、変わる。でも、人を大事にすることだけは変えなかった。」
会長が何より大切にしてきたのは、「人」だった。
「人材じゃなくて、人は財産。だから“人財”なんです。」
この言葉には、
人をコストではなく“未来そのもの”として捉える
会長の哲学が凝縮されている。
バトンを受け取った社長・古川洋平さんの覚悟

75周年は、会長にとって一つの節目であり、
社長にとっては「次をどう描くか」を強く意識する場でもあった。
「記念だけで終わらせたくなかったんです。」
社長はそう語る。
「75年続いた理由を、ちゃんと次につなげたいと思いました。」
派手な演出よりも、
社員一人ひとりが何を感じ、何を考えたか。
そのほうが、ずっと大切だと考えた。
「考えることも大事だけど、今は“行動する年”だと思っています。」

やってみて、失敗することもある。
でも、やらなければ何も始まらない。
「結果が良くなかったら、反省すればいい。それも含めて、経験ですから。」
この言葉の背景には、
会長から受け継いできた“人を見る目”がある。
口を出さない、と決めていた父

事業継承を終えたあと、会長は心の中でひとつの決意をしていた。
できるだけ、口出しはしない。
社長に任せると決めた以上、前に出過ぎないことが自分の役目だと考えていた。
しかし、その“距離感”は、社長の感覚とは少し違っていた。
承継からおよそ2年が経った頃、社長からこんな言葉をかけられたという。
「もう少し、口出ししないでほしい。」
会長自身は、
ほとんど口出しをしているつもりはなかった。
むしろ、かなり気をつけているつもりだった。

それでも、自分の発する言葉が、
想像以上に大きな影響を与えてしまっていることにそのとき初めて気づかされた。
「これほどまでに、自分の言葉は影響があるのかと。」
それ以来、会長はさらに言葉を選び、距離の取り方を意識するようになった。
任せるとは、何もしないことではなく、相手を信じて一歩引くこと。
その覚悟もまた、静かに受け継がれていった。
親子だからこそ、見えていなかった背中

社長は、幼い頃の会長の印象をこう振り返る。
「正直、子どもの頃は“人に興味がない人”だと思っていました。」
仕事一筋で、感情を表に出すことも少ない父。
しかし、ある出来事がその印象を大きく変えた。
母親が病気で手術を受けることになり、
手術室へ向かうその瞬間――
会長が人知れず涙を流していた姿を、社長は目にした。
「そのとき、この人も“人間だった”と思いました。」

人嫌いなのではなく、
むしろ誰よりも“人に興味がある人”だったのだと、初めて気づいた瞬間だった。
この経験が、
「人を大切にする経営」を受け継ぐ原点になっている。
人を信じる経営は、いまも変わらない

フルカワの根底にあるのは、
「人をつくり、生きる場をつくり、笑顔をつくる」という考え方だ。
社長は言う。
「会社って、結局は人の集合体なんですよね。」
得意な人もいれば、そうでない人もいる。
完璧な人はいない。
「だからこそ、助け合えるし、生かし合える。」

会長が長年大切にしてきた
心づかい・楽しむ・生かし合うという価値観は、
いま、社長の言葉として語られている。
「誰か一人が頑張っても、会社は変わらない。
でも、行動する人が少しずつ増えると、空気が変わる。」
75周年の場で、その兆しを感じたという。
経営計画発表会で感じた“継承”

75周年の経営計画発表会に参加したインタビュアーの森さんは、こんな場面が特に印象に残ったと語る。
「会長が“自分にはできなかったことを、息子はやれている”と自然に褒めていたんです。」
親子だからこそ、言葉にするのが照れくさいはずの想い。
それをあえて伝える姿に、森さんは“継承の形”を感じたという。

「会長は“自分はできなかった”と言われていましたが、その土台をつくったのは会長ご自身。
その意志を、社長がしっかり受け継いでいると感じました。」
また、多くの会社が
「人を大切にする」と掲げる中で、実際に行動に移している企業は少ないと感じています。
「オカシノフルカワは、“人づくり”を本気で実行している会社だと思います。」

同じく発表会に参加した私も、とにかく“人”に重きを置いている会社だと感じた。
スローガンだけでなく、育成や日々の関わりの中で“人を大切にする姿勢”が体現されている。
「それを社長がしっかり引き継がれ、次の世代を育てていこうとしているのが伝わってきました。」
75年という歴史の中で、
受け継がれてきたのは
“仕組み”だけではなく、“想い”だった。
新しい挑戦も、「らしさ」を忘れずに
最近では、お菓子と料理、
お菓子とSNSといった新しい取り組みも話題に上がる。
「伝え方は、時代に合わせて変えていきたい。」
一方で、社長はこうも付け加える。

「でも、中身が伴わない発信はしたくない。」
75年間、積み重ねてきた信頼があるからこそ、
軽く扱ってはいけない。
「楽しみながら、ちゃんと中身のあることをやる。」

それは、会長から学んできた姿勢そのものだ。
75年分の想いを、これからへ

75周年は、ゴールではない。
むしろ、新しいスタートラインだ。
会長は言う。
「旗を掲げたとき、一緒に船に乗る人がどれだけいるか。」
社長は応える。
「だからこそ、まず自分が動く。」
人を信じ、人を大切にし、
人とともに進んできたフルカワ。
人をつくり、生きる場をつくり、笑顔をつくる。
その想いを胸に、
オカシノフルカワは、次の時代へと静かに、力強く続いていく。