
日本人にとって、魚は特別な存在です。
お祝いの席にも、日々の食卓にも、静かに寄り添ってきた大切な食材。
そして長崎は、その魚の物語が幾重にも重なった土地です。
海に囲まれ、対馬海流がもたらす豊かな漁場。橘湾、有明海、東シナ海、大村湾・・。それぞれに異なる潮流と地形があり、多種多様な魚が水揚げされます。
古くから漁業が盛んで、港町には魚を扱う知恵と文化が自然と蓄積されてきました。
しかし長崎の魅力は、それだけではありません。
鎖国の時代、日本で唯一、西洋との交易が許されていた場所、出島。
この小さな人工島から、砂糖やガラス製品、医学や天文学、そして食文化までもが日本へと伝わりました。カステラ、南蛮漬け、そして和華蘭(わからん)文化を象徴する卓袱料理。和・華(中国)・蘭(オランダ)の文化が混ざり合い、独自の食文化へと昇華していきました。
異文化を拒むのではなく、受け入れ、混ぜ合わせ、自分たちのものにしていく。
それが長崎という土地の気質であり、本来なら遠い存在同士が、長崎では自然に重なります。

魚離れへの、ひとつの答え
「さばき方がわからない」
「調理が面倒」
「レパートリーが思いつかない」
魚は好き。でも、扱い方が難しい。
その小さな距離が、食卓から魚を遠ざけているのかもしれない。
そう考えたのが、株式会社FUKUNOTANE(以下、FUKUNOTANE)でした。
FUKUNOTANEは長崎県・南島原市でトラフグの養殖を行い、卵から成魚、加工までを一貫して手がけています。
命を育てるところから、食卓へ届けるところまでを担う会社だからこそ、「魚をもっと日常の真ん中へ戻したい」という思いが生まれました。
刺身や寿司という従来の食べ方だけではなく、もっと自由で、もっと肩の力を抜いた形。
そこで挑戦したのが、「お魚のオリーブオイル漬」でした。
ズボラな人でも、そのまま食べられる。
料理好きな人なら、いくらでも広がる。
そんな“間口の広い魚”を目指しました。

南蛮文化と、長崎の魚の出会い
ラインナップには、長崎で水揚げされるカサゴ(アラカブ)、マイワシ、そして自社養殖のトラフグ。
これらをエクストラバージンオリーブオイルに漬け込む。
それは単なる洋風アレンジではありません。
かつて出島からもたらされた異国の風。
そして今も水揚げされ続ける長崎の魚。
歴史の延長線上にある組み合わせが、現代の瓶詰めという形で再び結び直されたのです。
長崎の海と、南蛮文化。
その二つを掛け合わせて生まれたのが、「お魚のオリーブオイル漬」です。

そのままでも、アレンジしても
ふたを開ければ、すぐ一皿。
グラスを傾けながら、そのままお酒のおつまみに。
湯気の立つパスタに絡めれば、香り豊かな一品に。
そして意外にも、マカロニサラダに混ぜると驚くほど絶品です。
オイルに溶け込んだ魚の旨みが、料理全体をやさしく底上げする。
主張しすぎず、それでいて確かな存在感。
忙しい平日の夜にも、
少しだけ丁寧に過ごしたい休日にも。
魚を頑張って食べるのではなく、気づけば食卓にある存在へ。
それが、この商品の目指した姿です。

運命のオイルとの出会い
数あるオリーブオイルの中で、たどり着いた一本。
それが、チリのDELEYDA(デレイダ) でした。
出会いは、まさに“たまたま”のご縁でしたが、ひと口含んだ瞬間、その偶然は確信へと変わりました。
オリーブの持つ青々とした緑の風味と、やわらかく広がる口あたり。
魚の旨みをそっと包み込みながら、決して前に出すぎない上品さ。
そのバランスは、まるで最初から魚と合わせるためにあったかのようでした。
FUKUNOTANE は、このDELEYDAをオリーブオイル漬に使用するだけでなく、日本でまだあまり馴染みのない本物のオリーブオイルを伝えようと、輸入代理店として、日本と、真裏に位置するチリをつなぐ役割も担っています。
代表の河原邦昌さんは、より確かな目でオイルを見極めるため、数多くのオリーブオイルを自ら試飲し続けてきました。
その探究の先で、ジュニアオリーブオイルソムリエの資格を取得しています。
はじまりは偶然。けれど、その後に重ねてきた時間と選択が、この一本の説得力をつくっています。

長崎県特産品新作展での受賞
「お魚のオリーブオイル漬」はその味と品質が高く評価され、令和7年度長崎県特産品新作展・水産加工品部門において「優秀賞」を受賞しました。
これは、長崎県内の創意ある新商品を競う公的な審査会であり、専門家による審査を経て選定されるものです。
その受賞は、長崎の地域性や商品価値、味の完成度が県内外で認められた証でもあります。

未来へ蒔く“たね”
現在は瓶詰めで展開している「お魚のオリーブオイル漬」。
しかし挑戦は、ここで終わりではありません。
今後はカタクチイワシやサバ、カジキマグロなど、長崎で獲れるさまざまな魚種にも広げていきたいと考えています。さらに、業務用やお特用として使えるレトルト形態の開発にも挑戦したい。
ただ、魚が変われば、すべてが変わります。
水分量、脂のり、身の繊維の細かさ、硬さ・・・。
同じ“魚”という言葉では括れないほど、それぞれがまったく違う個性を持っています。
ある魚は崩れやすく、ある魚は身が締まり、熱の入り方も異なる。
オイルの染み込み方も魚種ごとに違います。
だからこそ、塩加減や加熱時間、漬け込みの工程を一つひとつ調整する必要があります。
身崩れを防ぎながら、旨みを閉じ込め、食感が最も良い状態で届けるにはどうすればいいのか。
品質保持の方法も一律では通用しません。
瓶からパウチへと形状が変われば、圧力や酸素の影響も変わります。
「どの魚も、その魚がいちばん美味しい姿で。」
そのために試行錯誤を重ねる。
簡単ではないけれど、それこそが魚を育て、扱う会社の責任でもあります。

かつて出島から入った南蛮文化。
豊かな漁場に育まれた長崎の魚。
そしてトラフグを卵から育てる養殖の技術。
それらすべてが重なり合って生まれた「お魚のオリーブオイル漬」。
魚をもっと身近に。
もっと自由に。
もっと、やさしく。
一瓶を開けるたびに、長崎の海と歴史が、静かに食卓へと広がっていく。
それは、魚離れへの小さな答えであり、未来へ蒔かれた“ふくのたね”なのです。