受け継ぐひとがいるから、残る景色がある。今福町、ふたつのお祭りで感じたこと。

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松浦市

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「祭り」という言葉を聞くと、屋台や花火、神輿など、賑やかな風景を思い浮かべるひとも多いかもしれません。

しかし、今回参加した松浦市今福町の二つのお祭りは、そうした華やかなお祭りとは少し違うものでした。

そこにいたのは、地域の無事を願いながら注連縄を編むひとたち。山道の草を刈り、ため池を守るひとたち。そして、その水を使いながら田んぼを耕し続けるひとたち。

祭りを見に行ったはずが、気がつけば、その祭りを今日まで続けてきた「ひと」の姿を見ていました。

今回、今福神社宮司・早田伸次さんにお声がけいただき、滑栄地区で行われる「夏祈祷」と、木場第一水利組合が行う「川祭り」に参加する機会をいただきました。

どちらも長い歴史の中で受け継がれ、今も地域の皆さんによって大切に続けられています。

実際にその場に参加してみると、そこにあったのは祭りそのものだけではありませんでした。

準備をするひと、道を整えるひと、水を守るひと、農業を続けるひと。

一人ひとりの手仕事や日々の積み重ねの先に、今福の祭りがあることに気づかされました。

地域の無事を願い、手から手へ受け継ぐ「夏祈祷」

最初に参加したのは、滑栄(なべるばえ)地区の夏祈祷です。

このお祭りは江戸時代から続いているとされ、コレラや天然痘、赤痢、腸チフスなどの伝染病が地域へ入ってこないよう願ったことが始まりと言われています。

今のように医療や生活環境が整っていなかった時代。地域のひとたちは、地域の入口に注連縄(しめなわ)を張り、地域の無事を願ってきました。そして、その風習を今も地域のひとたちが受け継いでいます。

朝から皆さんが集まり、注連縄を編み、滑栄地区へ続く4か所の入口へ設置していきます。

誰かが縄をより、誰かが形を整える。分からないところがあれば、慣れたひとが自然と手を添える。

今回、私もその輪の中に入れていただき、初めて注連縄づくりを体験しました。

見るのと、実際に作るのとではまったく違います。縄をより、形を整え、一本の注連縄を完成させるまでには、想像していた以上に技術が必要でした。

何気なく目にしていた一本の縄。けれど、それを作る方を間近で見て、自分でもやってみると、その一本の中に、地域のひとたちが長年受け継いできた知恵や経験が詰まっていることが分かります。

「地域の子どもたちにも、こうした体験をしてもらえたら。」そんな思いも自然と湧いてきました。

毎年誰かが集まり、知っているひとが知らないひとへ伝え、一緒に手を動かす。

文化は、何か特別な場所に保存されているものではなく、こうしてひとからひとへ渡されながら残っていくものなのかもしれません。

一方で、地域では高齢化も進み、これからの担い手をどうしていくのかという課題もあります。

今、注連縄を編んでいるひとたちの隣に、これから誰が座るのか。

この地域ならではの文化や経験が、これから先にもひとからひとへ受け継がれていってほしいと感じました。

水を守るひとたちと巡った「川祭り」

もう一つ参加したのが、木場第一水利組合による川祭りです。

国見岳の近くにある「葛籠池」「小堤」「牟田池」の三つのため池を巡り、その年が日照りにも長雨にもならず、豊かな実りの秋を迎えられるよう願うお祭りです。

このお祭りには、木場地区だけでなく周辺地域の方々も参加されています。

田んぼに欠かすことのできない水を地域で守り、農業を続けていく。川祭りは、そんなひとたちの暮らしと深く結びついています。

ため池へ向かう道は、決して平坦ではありません。その道中、渡口さんの運転する軽トラックに乗せていただき、山の中にあるため池へ向かいました。

「この道も地域のみんなで草刈りをしながら維持しているんですよ」

そう教えていただきました。その言葉が、とても印象に残っています。

お祭りの日に山へ入るだけなら、道があることも、ため池に水があることも、当たり前のように感じてしまいます。けれど、その道を普段から整えているひとがいる。ため池の様子を見ているひとがいる。その水を使い、田んぼを守っているひとがいる。お祭りは、その日だけで成り立っているわけではありませんでした。山道の草を刈る。ため池を管理する。田んぼを守る。

普段はなかなか目にすることのない地域のひとたちの日常の積み重ねがあって、その先に川祭りの日があります。

祭りでは、竹を使った昔ながらの祭具も準備されます。また、お供えする団子にも地域によって違いがあり、十三個供える地域もある中、今福では十二個なのだそう。そして、供えた団子の一部は池に残され、三つの池を巡っている間に、カラスや鳥などが食べることもあるそうです。ひとだけではなく、山や水、生きものとともに暮らしてきた地域。そんな話を聞きながら地域の皆さんと三つの池を巡っていると、農業と自然、そしてひとの暮らしが切り離せない関係にあることが見えてきます。

三つの池を巡り終えた後には、参加者もお団子をいただきます。長く続いてきた地域のお祭りの時間を、そこに集まった皆さんと一緒に過ごせたことも心に残りました。

景色の見え方が変わる瞬間

川祭りを終え、山を下りたとき、不思議な感覚がありました。登る前にも見ていた田んぼの景色。

何も変わっていないはずなのに、帰りに見た景色はまったく違って見えたのです。

夏祈祷では、地域の皆さんと一緒に注連縄を編み、それを地域の入口へ設置しました。

川祭りでは、ため池へ向かう道を整え、水を管理しながら田んぼを守ってきたひとたちと一緒に山を巡りました。

それまで「田んぼ」として見ていた風景の中に、少しずつひとの顔が浮かぶようになりました。あの道を草刈りしているひとがいる。水を管理しているひとがいる。田んぼでお米を育てているひと、祭りを続けているひとがいる。

景色そのものが変わったのではなく、その景色の向こう側にいるひとを知ったことで、自分の見方が変わったのだと思います。

普段、「当たり前ではない」という言葉を口にすることがあります。

今の私たちは、病気になれば病院へ行き、困ったことがあればさまざまな技術や制度に支えられています。安心して暮らせる環境が少しずつ整えられてきた時代を生きています。

一方で、かつては病気や天候など、ひとの力だけではどうにもならないことが、今以上に暮らしのすぐそばにありました。

だからこそ、地域の無事を願う夏祈祷や、水や農作物の実りを願う川祭りのような行事が生まれました。

そして、それを「昔からあるもの」で終わらせず、毎年準備をし、集まり、続けてきたひとたちがいます。

お米が実ること。水があること。地域で暮らし続けられること。

その一つひとつは決して当たり前ではなく、長い時間をかけて誰かが守り、次のひとへ手渡してきたものの上にある。

今回の二つのお祭りを通して、そのことを少しだけ体感できたような気がします。

受け継ぐひとも、方法も、少しずつ変わっていく

祭りが終わった翌日には、木場地区で行われている農薬散布も見学させていただきました。

地区の方がドローンの資格を取得し、地域の田んぼへ順番に農薬を散布していく取り組みです。

前日には昔から続く祭具を手に山を巡り、翌日にはドローンが田んぼの上を飛んでいる。

その光景がとても印象的でした。

昔から続いてきた地域のお祭りや水田を守る仕組みがある一方で、農業の現場では新しい技術も積極的に取り入れられています。

受け継いできたものを大切にすることと、新しい方法を取り入れること。

その二つは決して相反するものではありません。

むしろ、地域で暮らすひとたちが、その時代に合った方法を考えながら変えてきたからこそ、今まで続いてきたのではないでしょうか。

祭りも、農業も、風景も、自然に残ってきたわけではありません。

その時々に「続けよう」と動いたひとがいて、知恵を出したひとがいて、手を貸したひとがいる。

その積み重ねの先に、今の今福の風景があります。

これから、この景色の中にいるひと

二つのお祭りに参加して、共通して感じたことがあります。

それは、地域の文化も、農業も、風景も、ひとによってつくられているということです。

草を刈るひと。注連縄を作るひと。祭りの準備をするひと。ため池を管理するひと。お米を育てるひと。一つひとつは目立たないことかもしれません。

けれど、そうした一人ひとりの日々の営みが重なることで、今福の暮らしや風景がつくられています。一方で、高齢化や担い手不足が進む中、これまで続いてきたことを、これから誰が担っていくのかという課題もあります。それは「後継者を探す」ということだけではないのかもしれません。

まずは、その場所へ行ってみる。一緒に縄を編んでみる。

軽トラックに乗って山へ入ってみる。地域のひとから話を聞いてみる。

そうして一度でもその輪の中に入ることで、それまで知らなかった地域のひとや暮らしが見えてきます。今回参加した二つのお祭りも、決して昔を懐かしむためだけの行事ではありませんでした。

地域の暮らしや農業、自然との関わりの中から生まれ、今もそこに暮らすひとたちの手によって続いている文化です。だからこそ、まずは知ること。実際に参加してみること。

そこで出会ったひとのことや、感じたことを、誰かに伝えてみること。

そんな小さな関わりの中から、いつか「見るひと」が「参加するひと」になり、「参加するひと」が「一緒に続けるひと」になっていくこともあるのかもしれません。

私自身も今回、祭りを知るだけではなく、その向こう側にいるひとたちを知ることができました。

これから今福の景色を見るとき、きっとそこには、その景色をつくっている誰かの顔が浮かびます。

今回出会ったひとたちの姿や、教えていただいたことを伝えていくこともまた、この地域に関わる一つの方法なのだと思います。

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